Columnのページを新設いたしました。

これから、心理療法に関する記事や会員向けメールマガジンに掲載した記事などをここに掲載していく予定です。

記念すべき最初の記事は、2010年にご寄稿いただいた松木邦裕先生の会報巻頭言です。

私たちが活動の柱としている、子どもの心理療法を支援していくという活動について、温かいメッセージをいただきました。ここに紹介させていただきます。

 

 

「子どもを支援するということ」

松木邦裕

最近読んだ本の中に、インプリンティング(刷り込み)を発見した動物行動学者コンラート・ローレンツの『人イヌにあう』(早川書房)と量子電磁力学のくりこみ理論を完成した理論物理学者リチャード・ファインマンの『ご冗談でしょう、ファインマンさん』(岩波現代文庫)があります。

ローレンツの著作には有名な『ソロモンの指輪』がありますが、この著作は以前読んでみたものの感銘はあまり得られず、何年かぶりに彼の著作につきあいました。この『人イヌにあう』は読み応えのあるものでした。彼はイヌやネコを人間に見立てて可愛がるのではなく、イヌはイヌとして、ネコはネコとして、彼らの事実を根気強く正確に観察し、それを踏まえて人の立場での愛情を持って交わります。私がとりわけ注目したのは、彼が生活をともにしていたイヌに見る対象喪失の悲哀の過程や攻撃行為からの抑うつ的罪悪感をみごとに描写しているくだりでした。動物実験では見出せるはずもない、生きた生活を営んでいる個々の生命体の真実がここにあります。

ファインマンの逸話集『ご冗談でしょう、ファインマンさん』は随分前から気になっていた本でしたが、この手の本はいざ読んでみると退屈なことが多いので敬遠していました。しかし今回読んでよい刺激を受けました。彼が強調するのは、空論に浸るのではなく実在する事物を正確に観察し参照しながら、粘り強く考え続ける姿勢です。そして事実を見つめる際の科学的良心、すなわち徹底した正直さ、誠意を尽す姿勢です。

私はどうしてこのふたりの人物のことを書いているのでしょうか。それは、ふたりに共通する、根気を持って事実をありのまま見つめる姿勢と、そこに併存する愛情ある正直さは、子どもにかかわるときに最も重要なものだと思うからです。けれども多様な事情でそれらの態度で親からかかわってもらえなかった子どもたちがいます。その子たちが心理療法を必要としています。そうした子たちに私たちがかかわるときに大切なことは、分類的診断を下すことでもなければ、愛情をただ提供することでもありません。その子にとっての不動な事実・真実をその子が知り、受け入れることを幾許か手助けすることです。そのときの姿勢を私は述べたかったのです。ひとりの子どもという対象に大人がかかわるとき、子どもの事実に正直かつ適確であろうとすることの本質性を述べたかったのです。この短い文でうまく伝えられたかはまったく心許ないのですが、根気強く子どもにかかわっておられる皆さんに、皆さんが地道に実践しておられることが間違いのないことであることを伝えたかったのです。