これはサポチルの専門会員であるガヴィニオ重利子さん(最近刊行された『学校臨床に役立つ精神分析』の第6章を執筆されている先生です)がラジオ番組で話された内容です。

しかし、そのラジオというのが、何とスイスのジュネーブの英語話者向けラジオ番組だというので驚きです。「親子のコミュニケーション」について、1回5分間で、4週間続けて担当されたそうです。
今回、掲載を許可していただいたのは「感情emotionのコミュニケーション」です。英語で話された内容を日本語に訳し直していただきました。
世界でも同じサポチルの志を共有した仲間が活躍していると聞くと、ほっこりした気持ちになりますね。

Parent-child communication  emotions(親子のコミュニケーション 感情について)

相手の感情を理解することは、人間関係を築いていく中でとても大切なことです。これを私たちは共感性と呼んだりします。この共感性には、認知的な側面と情緒的な側面があります。認知的側面においては、相手の感じていることや考えていることに「思いをはせる」ことでそれを理解しようとします。「相手の立場に立って考えてみる」と言われるようなものがそれに当たります。これとは別に、情緒的側面も存在します。それは心理学では「感情感染」とも呼ばれ、相手に起こっていることやこれからまさに起こりつつあることを目撃することで「直に」その感情を体験するというものです。例えば、自動車事故を目の前で目撃したときの恐怖感や誰かがまっさらな紙で指を切ってしまったのを見たときに感じる「あ~っ」という感覚がそれに当たります。私たちは、それを理解や想像といった努力なしにただ「感じる」という体験をするのです。

それは学習して身につけていくものなのですか?それとも生まれつき備わっているものなのでしょうか?
この感情的な側面に限っていえば、生まれつき備わっているものであろうことがさまざまな研究からわかってきています。例えば、赤ん坊はとても幼いときから私たちの顔をよく見ていて、私たちの幸せそうな顔を好むことが分かっています。イライラしたり怒ったりしている表情を見ると赤ん坊もストレスを感じるのです。このような情緒的な共感性は、その後も私たちの人生に大きな役割を持ち続けます。

例えばどんなことが大人になっても起こるのでしょうか?
日本で行った研究では、「とっさの表情の変化を模倣する傾向」と「相手の感情に影響を受ける傾向」に関係があることが分かりました。これは、私たちの反射的な身体的反応が「相手に感じ入る体験」と強くつながっていることを示唆するものです。反射的な反応と同じように、私たちは「無意識に」相手に 感じ入る体験をしていることになります。そのような研究結果から推測されるのは、私たち親がどのような情緒的世界に生きているかということが、子ども達がどのような世界に生きることになるかに直接影響を及ぼすということです。私たち大人が自分の人生に満足できているのか?今生きる社会の中で大切にされていると感じられているのか?守られていたり、大事にされていると感じられているのか?それらすべてが子育てにとって大事な問いになるのです。とすると、私たちは子どもの前で笑っていないといけないのでしょうか?残念ながら、感情を「隠したり、繕ったり」することは逆効果だということも研究で分かっています。親が実は不幸なのに幸せなふりをすることは、子どもだけでなく親自身にもストレスがかかることが報告されています。本当はそうでないときに「幸せなふりをする」ことは、逆効果だということです。感情は、意識的なコントロールの及ばないところで感知されてしまうからです。感染してしまうのです。

では、親として何ができるのでしょう?
もちろん、いつでもどんなときでも「幸せ」でいることは不可能です。そしてときに不幸や悲しみと感じることは、人としてとても自然なことです。大切なことは、私たち自身がそれを自覚し、それらの感情をありのままに認めてあげられることだろうと思います。それは、人生の困難な時期にこそ、とても大切なことです。自分を大切にする術を身につけておくことが大事になるのです。
今日の私はどんな気持ちで生きているだろうか?その問いが子ども達が今日どんな気持ちで生きているかを理解する重要な鍵になのです。私たち大人が自分を大切にすることは、子どもを大切にすることに欠かせない大切な一部なのです。