コラム
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子どもと戦争
今、子どもの目に世界はどのように映っているのでしょうか。2022年2月末に起きたロシアのウクライナ侵攻は、これまでの紛争・戦争に比べて、日本でも大きく報道されました。日本に住む大人が受けた衝撃も大きかったと思います。そういった中で、子どもたちは今、何を感じているのでしょうか。
私は日々、子どもや青年たちと出会い、心理的援助を行う仕事をしています。その中で、子どもや青年たちが、さまざまなかたちで今回の戦争に影響を受けていることを感じます(エピソードには改変を加えています)。ある子どもは、大好きなサーモンが食べられなくなるらしいと眉をひそめていました。別の子どもは、戦争国の大統領名を叫びながら、フィギュアに猛攻撃を加えていました。また、ある青年は戦況を逐一把握し続け、遂に戦争の地がどうなっているのか行って確認したいと話すようになりました。別の青年は、戦争国が作っているゲームアプリを通して、自分もハッキングや監視を受けるのではないかと不安を抱き、更に過去の怖い体験が思い出される…といったこともありました。ここで紹介した子どもたちは、現実に起きた戦争を前に怖い空想が頭の中におさまらず、本当のことになったように体験しているように感じます。もちろん、自分の安全圏はおびやかされない、大丈夫といった感覚を持っている子どももいます。ただ、子どもは大人以上に日常と戦争との線引きが難しくなるのだと感じます。
次にお話するのは、私の家族の体験です。外国で大きなテロを経験した子どもたちが、その場所からはるか離れた地で、のんびりと家族でバスを待っていました。その時、上空を旅客機が横切りました。すると、子どもたちは、次々と傘を武器に見立て旅客機を狙い、『〇〇!〇〇!(テロを起こしたとされる組織)』と叫びました。周囲の大人たちの反応はさまざまでした。子どもたちの攻撃を応援する人、じっと黙っている人、子どもたちの傘を取り上げて止めようとする人。何が正解かは分かりません。大人たちも傷つき、動揺し、怒り、悲しみ、混乱しています。そして、その傍にいる子どもたちは、このように日常の中に圧倒的な体験が転写されてきます。
こういった子どもたちの姿を、大人としてどう受けとめていくことができるのでしょうか。結論からお話しすると、そっと身を寄せ一緒にいることしかできないのではないかと思います。その上で、子どもたちがこの事態をどのように感じているのか、体験しているのかに耳を傾けることだと考えます。先ほどお話したように、子どもは大人とはちがう景色を見ていたり、ちがう体験をしていたりします。より身近に危機がせまっていると感じ、強い不安をいだく場合もあります。さしせまった不安や、ふと感じる心配や考えは、誰かによって、知られ、抱えられ、やわらげられることを求めています。子どもが、自分の見ている世界・心について話したり、共有したりすることそのものが、安心感・安全感を生み出します。大人も同じですね。
子どもによっては、強い不安が身体症状や行動、気分の変化といったかたちで表れることもあります。子どもの不安や恐怖がとても強く、大人としてどう対応していいのか困ってしまう場合には、ぜひ心理の専門家に相談してみてください。
セーブザチルドレンの「専門家がすすめる子どもと戦争について話す時の5つのポイント」もご参照ください。
(サポチル理事/臨床心理士:小島香織)
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