サポチル NPO法人 子どもの心理療法支援会

新型コロナウィルス感染症(COVID-19)下における子どもと家族の心理臨床ガイドライン(第2版)

COVID-19 GUIDELINE

はじめに

本ガイドラインの趣旨および基本方針

新型コロナウィルス感染症(COVID-19)が拡がり始めてすでに数ヶ月が経ちます。このパンデミックが人々の⽣活にもたらす影響は甚⼤であり、その規模は予測の範疇を超えています。特に経済面での打撃や不安、生活様式の激変などによる精神衛⽣上の影響についても、その甚⼤さは指摘されており、既に COVID-19 影響下にある精神サービスにかかわる医療機関からは、⼤災害や戦争による⼼的ストレスに匹敵するレベルであるという報告もあります(Jia Jia Liu et.al,2020)。これは、私たちが⼼理療法⽀援の対象としている⼦どもたちも例外ではなく、むしろ平時から傷つきやすさや⽣きていく上での様々な困難を抱える彼らにとって、COVID-19 はともすると更なるトラウマ体験となりうる深刻な影響をもたらしかねません。私たちはそれを深刻に捉え、臨床活動に制限がかかるなかでも、⽀援対象である⼦どもとその家族をサポートするために、最善を尽くす必要があります。
本ガイドラインは、⼦どもと家族の⼼理臨床に携わる専⾨家が、ともすれば 思考停⽌に陥りかねない危機的な状況下にあって、⼦どもたちの⼼の健康のために何ができるか、あるいはできないかを考え続け、必要な判断をしていくことをサポートするために作成されています。

諸説ありますが、このパンデミックが終息するのは早くて来年春、あるいはそれ以上に⻑引く可能性もあるというのが多くの専⾨家の指摘するところです。個々のケースについて、局⾯局⾯での短期的な対応だけではなく、より⻑期的な⾒通しのもとでの介⼊の指針を持つことも⼤切です。しかしそれは同時に、私たち自身が正体不明の不安を長期にわたって抱え続けることを意味します。このような状況で私たちが心理士として活動を続けるには、同僚やスーパーバイザーとの話し合いは必要不可⽋です。ピア・サポートの場を活⽤することも役に立ちます。刻々と変わる状況の中、私たち⾃⾝が安全安⼼を確保し、⾃⾝の不安や⼒量を⾒定めていくことが必要です。⾃分⾃⾝の⼼との対話、同僚やスーパーバイザーとの対話を通じてなされる私たち⾃⾝のワークは、⼦どもと家族への援助を安全にマネージメントするための要となります。
⽇本で臨床活動をしている私たちは、ともすれば職場の上司や政府の意向や社会や「まわり」の動きに同調することを優先し、私たちが臨床責任を負っている⼦どもや家族にとって、与えられた状況の中で最善の⽅法はなんなのかを⼗分に考えることなく⾏動してしまう傾向があるように思います。もちろん、それぞれの職場のやり⽅や判断と折り合いをつけていくことも⼤切ですし、なによりも私たち心理士⾃⾝の健康を守り、専⾨家としての⼒量の範囲内で⾏動していくように努めることも重要でしょう。しかし同時に、クライエントのニーズに則して専門家としてできる範囲のことをするにはどうすれば良いかを模索する必要もあります。
現在の複雑かつ厳しい状況において、⼀⼈⼀⼈のクライエントにできるだけ役に立つ⽅策を心理士が考えていく⼀助として、本ガイドラインが役立つことを願っています。それぞれが所属されている機関の⽅針に照らしながら、⾃分⾃⾝の臨床判断を⾏っていく際に活⽤していただければ幸いです。

なお、本ガイドラインでは、クライエントと心理士双方の身体の安全を最低限確保することを最優先課題と考えています。生命の危険をも意味するパンデミック状況下での臨床活動においては、クライエントだけでなく心理士の安全にも配慮していく必要があります。その上でクライエントの心理面での安心と安全を確保し、クライエントの心理的なニーズに最大限応えるという難しい課題に私たちは取り組むことになります。


追記:
本ガイドラインの第1版を作成して1ヶ月余りが経ちました。この間、緊急事態宣言が延長され、そして解除に至っています。今後、感染状況がどのように推移していくかについてはおそらく誰にもはっきりしたことはわからないでしょうが、感染懸念は続くことは確かです。私たち心理士は、常に最悪の事態に備え、今後も感染拡大の第2波や第3波がやってくると想定してそれらに備えていく必要があります。本ガイドラインはそのための指針となることを願っています。

1.

COIVD-19に感染拡大に伴う臨床活動の制限と対応

WHO の報告によれば、COVID-19 は無症状でも感染の可能性がある伝染病と報告されています。少数であっても感染が認められている地域では、COVID-19 の症状がなくとも、クライエントだけでなく、心理士自らも感染源になる可能性があります。特に心理療法は、50分間親密なセッティングで行うため、COVID-19 の感染予防において特に注意を払う必要のある濃厚接触にあたります。したがって、感染状況に合わせて、レベル1以上の対策を行っていくことをお奨めします。[クライエントと心理士の相互安全性の確保についての詳細は、補足1を参照のこと。]
今後おそらく最低1年余りの間、COVID-19 の感染拡大の状況は継続し、その都度緊急事態宣言が発出されたり、解除されたりしていくなかで終息に向かうものと思われます。そうした政府や地方自治体の示す方針とは別に、私たちは臨床判断を行う必要があります。こうした判断を行う場合、それぞれのケースの事情をよく考え、担当する子どもや親の考えを聞きながら話し合って進めていくことが必須でしょう。以下はそうした作業の指針として利用していただきたいと思います。

1-1. 対面臨床活動の制限と停止のための指針

今後1年以上続くと見込まれるパンデミックが続く間、感染状況の変化に応じて随時、下記のレベル1から4への移行の判断をしていくことになると思われます。

レベル1: 衛生活動の促進とクライエントへの啓蒙活動

このレベルの制限は、通常の臨床を行うことを前提に導⼊していきます。導⼊の際には、メールあるいは電話でクライエントの養育者に導⼊の説明を行い、同意を得た上で、クライエント本⼈への説明と同意の確認を行うという⼿順が一つのあり⽅として考えられます。具体的には、通常の臨床を行う際に次のような⾏動が必要だと考えられます。

  • クライエント、セラピストともにマスクを着用するほか、フェイスシールド等を用いて飛沫を遮断する措置を講じること。面接の際には2m以上の距離をあけること。
  • セラピストは、毎セッションごとの⼿洗い/部屋の換気/消毒を⾏う。アルコールや次亜塩素酸ナトリウム水溶液を⽤いて、⾶沫や接触の生じる部分(ドアノブや⼿すり、共⽤の機器類、トイレ、ゴミ箱など)を中⼼に清掃を⾏う。
  • 以上に加えて、プレイセラピーの場合、共⽤のおもちゃ類はセッションごとに消毒すること。個別のおもちゃ類を⽤意する精神分析的⼼理療法とは異なり、基本プレイルーム内にあるおもちゃをすべて共有するタイプのプレイセラピーの場合、パンデミックが終息するまでプレイルームの使⽤は停⽌し、通常のおもちゃのない⾯接室で、⼦どもごとに個別のおもちゃ類を⽤意して行うことも必要であろう。その際、事前に⼦どもと親には⼗分な説明が必要である。[パンデミック下でのおもちゃの扱いについての詳細は補足2を参照のこと。]
  • セラピストあるいはクライエントのいずれかに⾵邪症状がある場合はセッションをキャンセルする(この状況下ではキャンセル料はとらない)。
  • セラピストあるいはクライエントに咳/発熱などの風邪症状があった場合、最低2週間の⾃⼰隔離期間を設ける。
  • 以上の点については、あらかじめ養育者への説明と同意を得て、⼦ども本⼈への説明と同意の確認を⾏う。
  • 予測される状況、⾒通しを養育者と⼦どもと話し合っておく。例えば、感染状況が改善しない場合、⾃治体の⽅針や家庭の事情で来室が困難になる可能性がある場合について、養育者と⼦どもがどのような思いや希望を持ち、来室をどのような形にするのかを話し合っておく。
レベル2: ケースバイケースでの直接コンタクトを伴う臨床活動の停止

このレベルの制限は、特定のクライエントあるいは特定のクライエントの家族が抱える健康状態を考慮して導⼊していきます。例えば、クライエントが1型糖尿病や重度の喘息等、COVID-19 に感染すると悪化を導く可能性のある慢性疾患や、免疫低下にかかわるコンディションを抱えている場合、そのクライエントへの直接の臨床介⼊は COVID-19 の感染リスクが⾼い時期は停⽌する等(この場合の対応については、次の 1−2の項で記述)。他⽅、こういったリスクが低いクライエントに対する介⼊はレベル1の制限を設けた上で通常通り⾏います。
その他、高齢者と同居しているような2世帯住宅、集団生活を営む福祉施設などに居住する場合なども注意が必要でしょう。

レベル3: 対面臨床活動の停止

このレベルの制限は、臨床活動を行う地域において COVID-19 の感染が拡⼤しており、対⾯での臨床活動の継続がクライエントおよびセラピスト、そして地域の⼈々の COVID-19 感染リスクを高める可能性がある場合に導⼊します。その場合、心理士個⼈、あるいは所属する組織の独⾃の判断で導⼊していく場合と、緊急事態宣⾔等、社会からの要請に答える形で導⼊していく場合が考えられます。前者の場合であれば、クライエントおよび家族にメールや電話で事前に説明をし、停⽌前にセッションを設けることで、その影響を少しでも消化していくというプロセスが可能になると思われます。しかし、後者の場合は、準備期間なく突然の導⼊という形をとるため、クライエントおよび養育者の受ける影響をどのように受け止めていくかを事後に検討していくことが必要だと思われます。

レベル4: 対面臨床活動の再開

2020年4月に全国に発出された緊急事態宣言は、5月末までにすべて解除されました。これを受け、すでに対面の臨床活動を再開している心理士も多いと思われます。
緊急事態宣言の解除や自治体の方針などは対面での臨床活動再開の目安になりますが、個々のケースについて、通所経路の安全性、本人もしくは同居家族に基礎疾患や高齢などのリスク要因があるかどうか、地域の安全性の評価などをふまえ、クライエントと話し合って対面を再開していく必要があります。この場合も、パンデミックが終息していないのであれば、レベル1の対応が基本となります。[詳細については、補足3を参照のこと。]

1-2. 対面臨床活動を停止する場合の対応

対⾯臨床活動を停⽌する場合、以下のような事項を検討する必要があるでしょう。いずれを選択するかは担当する⼦どもや親の状況や意向をふまえて決めていく必要があります。また、同僚やスーパーバイザーとの話し合いも必須でしょうし、職場や上司の⽅針と付き合わせていく必要もあるでしょう。[職場の連携については補足4および資料2を参照のこと。]

1-2-1. 対面臨床活動の停止を伝える手段と停止期間

⼿段としては直接会う⽅法の他、オンライン、電話、⼿紙、メールなどの選択があります。できるだけ直接会って伝えることが望ましいですが、緊急事態宣⾔などによりそれが難しい場合、電話やメールという⼿段も仕⽅ないでしょう。オンラインという⽅法もあるでしょう。
期間については、「安全になるまで」という曖昧なものよりも、できるだけ具体的な⽇程を提⽰することが望ましいでしょう。具体的な⽇程を提⽰できないときも何らかの⼿段で連絡を取る⽇程くらいは提⽰しておいたほうがよいでしょう。
停⽌期間ですが、緊急事態宣⾔などの期間が一つの⽬安ではあります。が、政府が⽰している期間でそれが解除されるとは限らないことを想定して「プランB」を考えておく必要があるでしょう。いずれにせよ、しばらくは対⾯セッションの再開が不可能になる可能性を想定して先の⾒通しを立てていくことが⼤切でしょう。頻度を下げて親⾯接を行う、⼦どもも交えた振り返り⾯接を1か⽉ごとに行うなどの選択肢もあります。これらをオンラインで⾏ってもよいかもしれません。
繰り返しますが、基本的には政府やその地域の⾏政判断の状況をふまえることは必要ですが、それに振り回されない、より⻑期的な⾒通しのもとに考えていくことが重要でしょう。まず COVID-19 の感染拡⼤状況は簡単には終息はしないでしょう。少なくとも来年の春くらいまでは悪化と軽減の波を繰り返していくことが想定されます。

1-2-2. 対面以外の選択肢

対⾯での臨床活動を停⽌する場合、停⽌期間が⻑期にわたる可能性が高い状況では、電話など対⾯以外の⽅法での臨床活動の可能性を模索することも重要です。その場合、セラピストが意識しておく必要があるのは、対⾯以外の臨床介⼊は、基本的にそれまで対⾯の臨床介⼊によって培ってきたクライエントとの接触の維持であり、それに代わるものではないということです。対⾯以外の臨床介⼊は、それぞれ固有の臨床介⼊としてのメリット・デメリットがあり、場合によっては、対⾯による臨床介⼊が想定していたクライエントのニーズに応じるものではないかもしれません。既に特定の訓練および経験により対⾯以外での臨床介⼊の技術と経験を積んでいる心理士は、それに基づく判断により、クライエントのニーズを⾒極め、それに応じていくことが可能になるかもしれませんが、そうではない心理士は接触の維持以上の効果を期待する⽴場にはないでしょう。この点において、専⾨家としての限界を⾒極めておくことは⾮常に重要だと思われます。しかし、現況のような危機的状況では、接触の維持⾃体がなによりも最優先される必要があるクライエントのニーズとなるかもしれませんし、私たちはそのニーズに対し、できるだけ臨機応変に応じていく必要があると思われます。これは接触の時間、頻度についても同じであり、対⾯時のセッティングを画⼀的に維持することがクライエントのニーズに合うとは限りません。例えば、週1回の⼼理療法を⾏っていたクライエントであっても、この危機状況におけるクライエントの⽣活環境、およびニーズによっては、週1回、各回5−10分程度の電話による状況の確認が、その時のクライエントのニーズに最も合う臨床介⼊の形となることもありえます。
以下にあげる選択肢は、クライエントの家庭環境によっては(あるいはセラピストの仕事環境、能⼒によっては)、実施が難しいことも考えられます。さらに、それぞれ対⾯とは異なる経験となるため、クライエントのニーズがその介⼊によって満たされるものなのか、そしてクライエントがそれを希望するかを慎重に確認しながら導⼊していく必要があると思われます。

A. 電話によるコンタクト

クライエント、あるいはセラピストのいずれかが、メールやオンラインでのコンタクトが可能な技術、あるいは環境がない状態にある場合は、電話によるコンタクトが選択肢として有⼒だと思われます。電話による臨床介⼊(種々の電話相談)は、対⾯による臨床介⼊と同様、歴史的にも確⽴された⽅法であり、また危機状況への臨床介⼊(いのちの電話、⼦どもの虐待ホットライン等)としても使⽤されていることは周知の通りです。したがって、セラピスト、クライエントにとっても大きな違和感なく経験できるコンタクトの形態と考えられます。

B. メールによるコンタクト

メールによるコンタクトは、クライエント側、あるいはセラピスト側に、安⼼して相談できる空間や時間が無い場合に、有⼒な選択肢となりえます。また、クライエントによっては、他の対⾯以外の接触が、対⾯での臨床介⼊よりも強い不安、緊張を喚起させる可能性が考えられる場合、クライエントの養育者に対しては電話、あるいはオンラインでのコンタクトで介⼊を行い、クライエント本⼈に対してはメールによるコンタクトにより臨床介⼊を図るといった形も有効性を発揮するかもしれません。

C. オンラインでのコンタクト

オンラインでのコンタクトは、クライエント側、およびセラピスト側に、それを⽤いて接触できる技術、環境が整っている場合に有効な選択肢となります。メリットとしては、⾳声だけでなく映像を通してコンタクトをとることが可能となるため、クライエントによっては対⾯に近いコンタクトを経験することが可能になるかもしれません。 オンラインでのコンタクトによる臨床活動については、本ガイドラインの別の項で詳細に説明していますので、そちらを参照してください。


なお、心理士側に上記の対⾯以外のコンタクトにより、それ独⾃の臨床介⼊を⾏っていく技術と経験が備わっている場合、あるいはスーパービジョンやピア・サポートをうけながら接触の維持以上の臨床介⼊としてそれを活⽤していくことを模索していく場合、対⾯臨床活動停⽌がクライエントおよびその家族に与える影響をアセスメントしていくことは⼤切です。その上で、対⾯以外のコンタクトによる臨床介⼊が、実際にクライエントのニーズに応じることができるかについて、少なくともその臨床介⼊導⼊期に見立てていく必要があります。それらのアセスメントの内容によっては、導⼊予定であった臨床介⼊を別の形に変える(例えば、コンタクトの維持のみを図るタイプの介⼊に変更)等の検討が必要となるかもしれません。
以下には、対⾯時の介⼊が精神分析的⼼理療法であった場合に考えられる対⾯以外の臨床介⼊の選択肢を紹介します。

A. クライエントへの心理療法+親面接

対⾯外のコンタクトにシフトしてもなおクライエントに⼼理療法の介⼊の余地があると判断される場合、電話によるコンタクトであれ、オンラインでのコンタクトであれ、⼼理療法と親⾯接の継続を模索することが選択肢になる場合もあるかと思われます。

B. 頻度を上げた親面接

対⾯外のコンタクトではクライエントの⼼理療法の維持は難しいと判断される場合、通常学期に1度⾏っている親に対するレビューの頻度を上げ(例えば⽉1回等の頻度)、⼼理療法が停⽌している期間のクライエントおよび家族の様⼦をレビューしていくことが選択肢になるかもしれません。適当であると判断される場合、⼦どもがそのレビューに参加することが有効となることもあるでしょう。

C. 親面接のみの継続

対⾯外のコンタクトではクライエントの⼼理療法の維持が難しいと判断されるが、親⾯接のニーズが高い場合、親⾯接は通常と同頻度で⾏っていくことが選択肢となることもあります。場合によっては、⼼理療法停⽌状況では、⼦どもの抱える問題がより困難なものとなる可能性があるかもしれませんし、親も学校の停⽌等で⼦どもと接触する時間が増えるなか、⼦どもをより困難に感じる状況に陥る可能性もあります。その場合、通常より頻度を上げた親⾯接を設定することが有効に働く場合もあると思われます。

D. 家族面接

対⾯による⼼理療法停⽌に対する反応、および⼼理療法停⽌時のクライエントおよび親を含めた家族の状態によっては、家族⾯接による介⼊が選択肢として有効になるかもしれません。特に⼼理療法対象のクライエントが5歳以下の⼦どもであったり、発達障害を抱えた⼦どもの場合、既にアセスメントプロセスで家族⾯接を経験しているケースも少なくないでしょうから、⼼理療法停⽌期間にこの介⼊にシフトすることには抵抗も⽐較的少ないでしょうし、また介⼊⾃体の効果も期待できるケースも多いと思われます。

1-2-3. 対面臨床活動停止中の新規ケースの取り扱い

対⾯臨床活動停⽌期間であっても、関連機関からクライエントが紹介される、あるいはクライエント⾃ら新規の相談を申し込んでくることが考えられます。もしその期間が1か月前後の短期的なものとなるようであれば、対⾯臨床活動のできない期間中は新規の申込みは受け付けないという形が妥当かと思われますが、それが1か月以上の⻑期に及ぶ可能性がある場合、何らかの形で新規の申し込みに応じる必要がでてくると思われます。以下に挙げる介⼊は、心理士がそれを提供する技術と経験があるか否かによって選択肢として有効かどうかがわかれてくると考えられます。ここにおいても、心理士が⾃らの限界設定を設けておくことは重要であり、それにしたがって以下の介⼊を提供するかどうかを決めることは⼤切です。

A. 電話あるいはオンラインでの治療コンサルテーションの提供

心理士に電話やオンラインでの治療コンサルテーションを提供できる技術と経験がある場合、対⾯によるアセスメントが可能となる期間まで、クライエント、およびその家族に治療コンサルテーションを提供することが助けとなる場合もあるかと思われます。ケースによっては、治療コンサルテーションを対⾯によるアセスメントの延⻑として捉え、治療介⼊としての有効性を期待するよりも、対⾯が可能となったときに完結される包括的アセスメントの⼀部として捉えていくことで、クライエントのニーズおよび状態の理解を⽬指す形で⾏われる⽅が助けとなる場合もあるかもしれません。
ただその場合であっても、治療コンサルテーションは必ずしも対⾯のアセスメント導⼊まで継続する必要はなく、例えば、コンサルテーションの経過の中で臨床リスク等の問題により他機関への紹介が妥当だと判断される場合は、その時点でコンサルテーションの提供を終了することが必要なケースも考えられます。したがって、治療コンサルテーションの場合、基本的には単回の介⼊であり、必要があれば延⻑していくといった形の介⼊として捉えておいた⽅が、クライエントの様々なニーズに応じることが可能かと思われます。

B. 電話あるいはオンラインでのアセスメントおよびセラピーの導入

心理士に電話あるいはオンラインでのアセスメント、セラピーの技術と経験がある場合、それに基づいてアセスメントを行い、その結果オンラインでのセラピーがクライエントのニーズに応じることができる可能性が⾼いと判断された場合、クライエントと親の了解を得た上でオンラインセラピーを導⼊することは可能であると思われます。その場合、対⾯臨床活動再開後に、それを対⾯にシフトさせるかどうかについては細⼼の注意を払う必要があります。ケースによっては、構造の安定が治療上重要な要素かもしれず、対⾯臨床活動が可能となっても、オンラインでのセラピーを継続していく⽅がクライエントのニーズにかなうこともありえます。

C. 新規ケースは受け付けない

心理士にAかBのいずれかを行う技術や経験がない場合は、対⾯臨床活動停⽌期間が⻑期にわたったとしても、新規のケースは受け付けない⽅が専⾨家としての倫理にかなうあり⽅だと考えられます。ただ、それであっても、探索的に、スーパービジョンやピアグループのサポート、技術習得に必要なトレーニングを受けながら、Aあるいは Bを試験的に試みることは、臨床技術の研鑽上、このような状態にあっても必要なことかもしれません。ただその場合、心理士⾃らの⽴場と試みの⽬的をクライエントに⼗分に説明し、了解をとった上で介⼊を試みていくことは⼤切です。


なお、通常の臨床活動でも必要なことですが、対⾯臨床停⽌期間中に Aあるいは Bの介⼊を行う場合は特に、クライエントに児童虐待の懸念や⾃殺企図等のリスクがあること等が申し込みの段階あるいは介⼊の経過で判明した場合に即座に対応できるよう、相談申込みの段階で、クライエントが緊急事態宣⾔下であっても直接アクセスすることのできる児童相談所、精神科医療機関を把握しておくことが重要です。

1-3. 心理士の心の健康と感染の危険性

COVID-19の感染の危険性は、心理士にもあります。心理士は、自分自身の健康状態を維持するために必要な方策をとることが大切です。また、感染懸念とそれに伴う社会的な激変によるストレスのために心理士のメンタルヘルスにも相当の負担がかかっていることの自覚と、それへの対処をしていくことも重要でしょう。心理士に過度の負担のかからない範囲で臨床活動をしていくことが大切ですが、そのキャパシティは人によって異なることを職場の中で認めていく必要もあるでしょう。
心理士が感染している場合、症状がない場合も臨床活動を停止し、最低2週間以上は自己隔離する必要があります。そして感染の事実と自己隔離の期間をクライエントに直ちに伝えるべきでしょう。症状がある場合、できるだけ今後の見通しをクライエントに伝える必要があります。クライエントとの連絡が難しい場合、代わりにクライエントと連絡を取ってくれる同僚を確保しておくことも重要でしょう。
 諸外国の深刻な感染拡大状況と同様な事態が今後わが国で起きた場合、心理士もCOVID-19によって死に至る可能性も想定し、その場合に(「臨床に関する専門家としての遺書(clinical professional will)」という形で)クライエントがどのようにすればよいか同僚や職場に伝えておくことも大切になるでしょう。

2.

対面臨床活動の停止時および非対面臨床活動への移行検討時のリスクアセスメントおよび
リスクマネージメント

多くの場合、心理士が対⾯臨床活動を停⽌する期間は、緊急事態宣⾔下かそうでなくてもCOVID-19 の感染拡⼤防⽌のために様々な社会活動の⾃粛が求められる期間とみなせます。先にも述べたように、この期間は、COVID-19 が直接的、間接的にもたらす様々な不安により、多くの人々が平時よりも精神的に苦しむ可能性がある時期です。既に UNICEF は 2020 年3⽉ 20 ⽇の時点で、COVID-19 の感染拡⼤防⽌に伴う対策による影響で、児童虐待のリスクの増加に警鐘を鳴らしています。私たちが臨床活動によって⽀援するクライエントはそもそも精神的に苦しんでいる状態にあり、多くの場合、そういった不安やストレスに対する脆さを抱えて⽣きています。心理士が対⾯臨床活動を停⽌する期間は、それによる様々な社会的/精神的リスクにクライエントは平時よりもさらにさらされることになると思われます。したがって、心理士は平時よりもクライエントのリスクにより注意を払い、必要な対処をしていく必要があります。
注意すべきリスクには以下のようなものがあります。

  • 家庭内暴力、児童虐待のリスク
  • 自傷、自殺のリスク
  • 精神障害発症のリスク
  • 他害(他者への暴力)のリスク

2-1. リスクがすでに高い場合

クライエントが既にいずれかの高いリスクを抱えているとき、多くの場合、クライエントは同じ組織、あるいは別組織の他の専⾨家にそのリスクのマネージメントのための何らかの介⼊を受けている状態にあり、心理士もその専⾨家たちと協働関係にあると思われます。対⾯臨床活動停⽌期間は、オンラインでの臨床活動に移⾏する場合であっても、それがクライエントの⼼の状態に大きな影響を与え、既存のリスクを高める可能性があります。したがって、連携している他の専⾨家に事前に連絡を取り、現時点でのクライエントの抱えているリスクのレベルについて確認し、必要な対応を話し合っておくことが⼤切です。

2-2. 対面臨床活動の停止中にリスクの高まる可能性がある場合

緊急事態宣⾔下のような危機的状況においては、心理士⾃⾝の介⼊およびその即時性だけでなく、他の専⾨機関のそれも失われる可能性があります。したがって、リスクがマイルドな場合であっても、対⾯臨床活動停⽌期間中に、万⼀クライエントのリスクが⾼まったときに、クライエントがどの専⾨機関にコンタクトをとる必要があるかを、クライエント、少なくともクライエントの養育者との間で確認しておくことが⼤切です。もし、対⾯臨床活動停⽌が準備期間なく⾏われた場合、その後であっても、電話等により、クライエント、あるいはクライエントの養育者にその確認を行うことは、懸念されるリスク⾃体の軽減効果も期待できるため重要な介⼊となりえます。

2-3. 対面臨床活動の停止中でもリスクの高まる可能性が低い場合

対⾯臨床活動停⽌期間中であっても上記リスクの⾼まる可能性が低いクライエントであっても、特に⾮対⾯臨床活動によって何らかの介⼊を維持する場合、上記リスクについては常に注意を払っておく必要はあると思われます。ただ、その際、心理士が⾃覚しておく必要があるのは、対⾯臨床活動のできる状況と⽐較して、⾮対⾯臨床活動の間は心理士の観察に様々な点で制限が加わるため、通常よりもリスクの見立てが困難になりうることです。したがって、少しでもリスクのサインがある場合、取り越し苦労であったとしてもそれは深刻に受け止める必要があります。内容によっては即座に連携機関に報告することが必要かもしれませんが、少なくともそれを同僚やスーパーバイザーと話し合うことによって、対応を検討しておくことが⼤切かと思われます。

なお、リスクアセスメントは平時でもそうですが、特に現在のような危機的状況の場合、心理士⾃⾝、不安等にさらされることにより的確な判断が難しくなっている可能性が高いと考えられるため、単独の心理士で行うことは望ましくありません。可能であれば、リスクアセスメントは協働関係にある他の専⾨家と協働して行うことが重要です。そのような環境にない場合は、少なくとも同僚やスーパービジョンの助けを借りながら、リスクアセスメントの内容を検討する機会を持つ等、他者のサポートを得る形で行うことが望ましいと思われます。

3.

オンライン臨床活動の導入

3-1. オンライン臨床活動の導入

⼦どもと家族の⼼理臨床において、対⾯による臨床活動を停⽌せざるを得ない場合、オンラインでの臨床活動を検討することになります。パンデミック状況下においては、上述したレベル 2 の状態、感染リスクの高い期間や政府の緊急事態宣⾔の期間が⻑期にわたる場合もあり、ほとんどのケースにおいては、何らかのコンタクトを維持することが望ましいだけでなく、虐待や⾃殺などのリスクがある場合などはセラピストとの繋がりは必須かもしれません。子どもの治療への権利を尊重する観点からも、何らかの方法でコンタクトを維持する方法を模索することが重要です。 ⼤半の心理士は、オンラインでの臨床活動の経験もなく、訓練も受けていない状況であること、さらに、刻々と変化する感染拡⼤状況や社会状況の中でこうした新しい臨床活動を行うのは様々な困難を伴います。したがって、心理士は、関わる個々の⼦どもと家族のニーズや状況に応じてその対応を考えていく必要があります。その際に、スーパービジョンだけでなく、ピアグループや職場の同僚との情報交換や話し合いがとても⼤切になるでしょう。
オンラインでの臨床活動によって、何もなかったかのようにこれまでの臨床活動が継続できるわけでもないですし、逆にほとんど意味がないか有害かもしれない介⼊であると断定することもないでしょう。繰り返しますが、多くのケースで、心理士が⼦どもや家族のことを気にかけているということを示すだけでも助けになると思われます。特に、感染の懸念や経済的な不安に襲われながら、家庭に閉じ込められ、孤⽴と分断の中にいる⼦どもや家族にとって、私たち心理士が彼らのことを気にかけ考えようとしていることを知ることそのものがサポートになると思われます。
⼤⼈とのオンライン臨床活動以上に、⼦どもと家族との臨床におけるオンライン臨床活動は複雑で多くの困難を伴います。⼦どもとのプレイセラピーをオンラインで行うことは難しいと考えられます。それでも⼦どものニーズに応えるために、何らかの⼯夫をすることでオンラインでのセッションを行うことは検討されてもいいと考えます。この場合も親による⼗分な理解とサポートが必要になるでしょう。こうした試みを⾏った心理士の知⾒を積み重ねていくことも重要でしょう。現実的には、オンラインの臨床活動は、親と⼀緒に行うか、あるいは⾔葉によるコミュニケーションが⼗分可能な、ある程度年⻑の⼦どもか思春期や⻘年期の⼦どもに限られてくるでしょう。その場合も彼らの部屋で行うことになる際に侵⼊的な経験になる可能性にも配慮する必要があるでしょう。オンラインでの臨床活動は、継続的なものでなくても、ストレス下にあって私たち心理士との繋がりも失うという苦境に私たちのクライエントを陥れないための苦⾁の策として断続的に提供することも視野に入れ、柔軟に取り入れていくべきものと思われます。オンラインでの⾯接の有効性、オンラインでの精神分析的⼦どもの⼼理療法については本ガイドラインの最後に資料を掲載していますので、ぜひお読みください(資料1)。
どのケースも、⼦どもと家族の状況に応じて、注意深く介⼊の⽅法を考えていく必要があります。そして介⼊の影響をその都度⾒極めて、必要であれば変更する⽤意があることも⼤切でしょう。個々のケースについては、スーパービジョンを受けたり、同僚との話し合いをしたりしていくことが、こうした未知の臨床領域で仕事をしていくために必須でしょう。
英国の⼼理学の諸団体が連名で作成した『新型コロナウイルス感染症が世界的に流⾏する状況下における⼼理⼠のための指針』では、「サービスの継続が最優先であり,データ保護に対する懸念はこれを妨げるべきではありません。英国個⼈情報保護監督機関(Information Commissionerʼs Office)は,この特別な期間中に,通常のアプローチを調整させる必要がある組織に罰則を科すことはありません。」とあります。我が国の法制度上の扱いは不明ですが、オンライン臨床活動におけるデータ保護を過度に懸念して、クライエントの福祉をサポートするための臨床活動を停⽌しない⽅がいいと考えるべきではないかと思われます。

3-2. オンライン臨床活動の方法

オンラインでの臨床活動は、基本的にビデオ通話を⽤いる⽅法を指しますが、上述したように家の内部や部屋の内部が映ってしまうビデオ通話が侵襲的になったり、過度に興奮させてしまう場合もあることは考慮する必要があります。
ビデオ通話の⼿段としては、Skype、ZOOM、LINE、FaceTime などがあります。プライバシー保護のためのセキュリティ、通信の安定度、利⽤のしやすさなどそれぞれの特徴があります。それぞれの特徴を把握して、個々のケースやセラピストの装備や準備に応じてオンラインの⼿段を選択していく必要があるでしょう。

3-3. オンライン臨床活動の内容

オンラインでの臨床活動には以下のものが挙げられます。

  • ⼼理療法
  • 親⾯接
  • 振り返り⾯接
  • 家族⾯接・親⼦同席⾯接

クライエントが来談できても、諸般の事情により、例えば⼦ども担当のセラピストが⾯接室に来られなくなることもありえます。そのような場合、変則的ですが、親⾯接者が⾯接室に端末を設置し、⼦ども担当者はオンラインにより参加する形で、親⼦同席で振り返り⾯接などを行う⽅法もあります。

3-4. 導入にあたっての注意点

オンラインでの臨床活動は、対⾯の臨床活動に比べて私たち心理士の多くにもその利点や⽋点、リスクなどがあまりわかっておらず、また私たちの訓練の中にもない未知の領域なので、その導⼊には慎重さが必要ではありますし、クライエントへの丁寧な説明と同意をもって始める必要があります。説明書を用い、同意書を交わすことが役立つ場合があります。(ご参考までに、説明書の内容例を資料3として掲載しています。)
以下にオンライン臨床活動を導⼊するにあたっての注意点を挙げます。子どもと家族を複数のスタッフで担当している場合、以下の点について担当者間の話し合いを十分に行うべきでしょう。

3-4-1. セラピスト側の準備は十分だろうか?
  • オンライン面接の導入にあたってのリスクアセスメントを行えるでしょうか。
  • オンラインの臨床活動を導⼊するには適切な端末やネット環境が必要です。機材や機器の準備だけでなく、所属機関のバックアップが必要です。
  • 相談機関の相談室や⾯接室がそのまま使える場合もありますが、場合によってはセラピストも家から出ることができず、家から臨床活動を行う場合もあります。その際、クライエントのプライバシーが⼗分保護される空間が確保されている必要があります。セラピストの他の家族が聞いていたり、セラピストの⼦どもが背後をうろうろしたりすることのない準備が必要となります。
  • セラピスト自身のプライバシーが十分保護されていることも必要ですが、過度に防衛的になることもないでしょう。
  • セラピストがセッションに集中できる環境を持つことは重要です。個室が難しい場合、⾃家⽤⾞などを臨時のオフィスとして活⽤するセラピストもあります。また、イヤフォンの使⽤は外の雑⾳を遮断し、セラピストがセッションに集中することを助けてくれます。
  • オンラインセッション中の不具合や受信できない時のための対策について検討が必要です。機器の予備、アカウントの予備、不測の事態が起こった時のための連絡方法について準備しましょう。
3-4-2. クライエント側の準備は十分だろうか?
  • オンラインによる臨床活動は各家庭の状況に応じてやり⽅を⼯夫する必要があります。ネット環境やプライバシーが保たれる個室があることが基本条件です。しかし、多くの家庭では、個室の確保は不可能な場合があります。親⼦同席⾯接に似た形で、親がビデオ通話している中に⼦どもも会話に参加したり、遊んでいる様⼦を見せてくれたりする「ビデオ通話による親⼦同席⾯接」などを行うなどの⽅法もあります。
  • ⼦どもとの間でのオンラインによるセッションを検討する場合、⼦どもがそれを⽤いることができるかどうかの検討と同時に、それを親が⼗分にサポートできるのかどうかの検討も同時に行う必要があります。親との話し合いは何にも増して重要です。
3-4-3. セラピスト自身が十分なサポートを得られるのだろうか?

オンラインの臨床活動はもとより、このパンデミックという未曽有の経験の中でセラピストが孤⽴して臨床活動を行うことは避けるべきです。スーパービジョンやピアグループ等のサポートを受けながら行う必要があります。所属機関の指針やバックアップが助けになると同時に、限界も明らかになるでしょう。

3-4-4. 守備義務の問題

オンラインの臨床活動を行う場合、通常の臨床活動とは異なる形での守秘義務への留意が必要となります。セラピストが在宅でオンラインでの臨床を行う場合は特別の注意が必要です。また、⽤いるビデオ通話システムのセキュリティの問題にも注意を払う必要があるでしょう。しかしながら、上述したようにデータ保護の過度の懸念により、臨床活動を停⽌することは避けた⽅がよいのではないかと考えます。

以上のオンライン面接導入の準備やリスクアセスメントの詳細については、資料4をご参照ください。

3-5. オンライン臨床活動中の留意点、技術的工夫

  • オンライン臨床活動は、現時点では、ウィルス感染の蔓延状況においてクライエントとセラピストを繋ぐための臨時の代替手段による方法です。オンラインという特異的な方法による臨床活動を行うにあたっては、クライエント/セラピストへの影響について、セッションで何が起きているのかについて、考え続けることが重要です。
  • オンラインの臨床活動を導⼊するには適切な端末やネット環境が必要です。機材や機器の準備だけでなく、所属機関のバックアップが必要です。
  • オンラインによる面接は、クライエントの居住空間であるプライベートの領域にセラピストが登場することになります。このことがクライエントにどのように影響を与えるかをいつも考慮することが必要になります。
  • クライエントによっては、過度に侵入的に感じられたり、セラピストと急激に接近する/される体験となったりし、不安が高まるかもしれません。こうした状況においてセラピストは自らの感覚をもとに何が起こっているのかを観察し、クライエントと話し合うことが重要です。
  • オンラインという直接対面しない方法は、クライエントによっては、通常の対面の設定よりも対人面における様々な不安やコミュニケーションへのプレッシャーが和らぐ場合があります。オンラインの設定により、これまで見せていなかった面を表わし、クライエントに潜在していた心の健康な部分、成長している部分が明らかになり、思いがけない発見があるかもしれません。
  • セラピストにとっても、自身のプライベート空間にクライエントが登場することになり、セラピストの日常生活における様々な境界が変化します。セラピストが良い仕事をするためにはまず、境界の物理的設定を工夫することが役立ちます。また、境界の変化がセラピスト自身にどのように影響しているのか考えることも重要です。
  • オンライン臨床活動を始めてみて、この方法がクライエントにどのように体験されているのか、クライエントと話し合いましょう。この方法がクライエントに適していないと感じられた場合は、どのような点でそう感じたのか同僚やスーパーバイザーと話し合いましょう。
  • クライエントによっては、通常の50分の面接時間をオンラインで行うことに耐え難く感じたり、自分を保っていることが難しくなったりするかもしれません。面接時間を一律に保とうとせずに柔軟に設定することが役立つ場合があります。

4.

COVID-19下での被虐待経験のある子どもへの支援

パンデミック状況下では、家庭内に閉じ込められることで虐待状況が悪化する危険性は⼀般的に⾼いと考えられます。⼼理⼠は、そのリスクをアセスメントする必要があります。場合によっては、児童相談所や地域の家庭⽀援センター等と連携を取り合うことを検討する必要があります。
リスクマネージメントをするために、通常提供している⼼理療法とは異なる臨時の対応とそのリスクを検討する必要があるかもしれません。 ⼦どもと家族の安全を優先する必要性から、心理士が提供できることは何かを明確にし、具体的な介⼊が必要な場合は、抱え過ぎずに連携諸機関に緊急措置を委ねる必要があります。
このような状況が起こり得ることを前提とし、親⼦関係が悪化し、リスクが⾼まるときには、保護者あるいは⼦ども⾃⾝が連携諸機関に緊急の連絡を入れることが必要であることを事前に話し合うことも⼤切です。

5.

COVID-19下での発達障害のある子どもへの支援

⻑期間家庭内に居る必要があるストレス下においては、情緒的な問題やコミュニケーションの問題が悪化し、親⼦間、兄弟姉妹間、家族内の緊張やストレス状況がさらに増すという悪循環を呈する可能性があります。場合によっては、⼦どもの暴⼒、あるいは親の虐待などが起こるリスクがあります。こうしたリスクを検討し、適切な臨床介⼊を検討する必要があります。
⼼理療法の枠組みを超えて、リスクマネージメントを優先し、このような悪循環をいかに脱するか具体的な対応を思案する必要があります。可能ならば、問題が顕在化する前から、保護者と話し合いをもち、保護者あるいは⼦ども⾃⾝が心理士やそれ以外に緊急時に連絡をとり対処できる資源を検討しておくことが望ましいでしょう。
できる限り活⽤可能な社会資源や、助けを求めることが可能な親族・知⼈を具体的に⼀緒に検討しておくことは、保護者⾃⾝のリスクマネージメント能⼒を強化することにつながるかもしれません。
ウィルスといった⽬に⾒えないものに対する漠然とした恐怖が脅威となり、極度の不安に陥っている⼦どもや家族、いつもと変わらない様⼦を見せつつも背景にはこうした不安を抱えている⼦どもや家族もいると思われます。新型コロナウィルスを⼦どもや家族がどのように体験しているかについて、⼼理⼠が実感をもって理解しようとし、現実感をもって介⼊する必要がある場合があります。

6.

親への支援

⼦どもと家族は、これまでにも様々な苦楽の経験や⼈との繋がりを体験し、苦境を乗り切ってきたそれぞれのやり⽅、⾃然治癒⼒や回復⼒をもっています。しかし、外出などの⾏動の制約や、普段接している⼈とのつながりから隔離された⽣活をはっきりとした⾒通しがなく⻑期間過ごすことは、私たちが対象にしている⼦どもと家族にとっては特に困難を伴います。
こうした状況において、⼼理⼠が⼦どもと家族にコンタクトをとり続けようと模索し、⼦どもと家族と話し合っていく過程そのものが、臨床的に意義のある介⼊となる可能性があります。
親への⽀援については、下記の資料が役に立つでしょう。ストレス下での⼦どもの反応、必要な対処、⼦どもに事実を伝えること等について書かれています。

https://www.who.int/emergencies/diseases/novel-coronavirus-2019/advice-for-public/healthy-parenting

その他

引用参考文献

Jia Jia Liu, Yanping Bao, Xiaolin Huang, Jie Shi & Lin Lu. (2020). “Mental Health considerations for children quarantined because of Covid-19”, The Lancet Child & Adolescent Health, 4(5),347-349.

『子どもと若者と家族との遠隔臨床の指針』Guidance on working remotely with children, young people and families. The Association of Child Psychotherapists(ACP). 2020.この⽂献の翻訳に関して、松本拓磨さん、加藤のぞみさん、松波美⾥さん、樹下勝弥さんの協⼒を得ました。

『新型コロナウイルス感染症が世界的に流⾏する状況下における⼼理⼠のための指針』(Guidance for psychological professionals during the COVID-19 pandemic)、全国⼼理職能団体連合(The national Psychological Professions Workforce Group and professional bodies), 2020 .認知・行動療法学会による翻訳を参考にさせていただきました。

【第2版発⾏⽇ 2020 年6⽉   ⽇】
本ガイドラインに関するお問い合わせはサポチル事務局までお願いいたします。

【執筆者】認定NPO法人子どもの心理療法支援会『子どもと家族の心理臨床ガイドライン』作成ワーキンググループ(ガヴィニオ重利子、河邉眞千子、西村理晃、平井正三、松本拓磨、吉岡彩子、吉沢伸一)

【発⾏元】
認定 NPO 法⼈ ⼦どもの⼼理療法⽀援会(サポチル)
〒604-8187 京都市中京区東洞院通御池下ル笹屋町444初⾳館302 TEL: 075-600-3238 E-mail: info@sacp.jp

補足 1

クライエントとセラピストの相互安全性の確保

1.クライエントの安全性

感染への対策を講じた上で、心理的なリスクに対応すべくニーズに即した柔軟な支援が重要です。

2.セラピストの安全性

クライエントと同程度に、セラピストの感染リスクが配慮され、相互の安全が確保されてはじめて支援が成立します。

3.安全性の判断

安全性は、主観的な要素も多く(例えば、情報漏洩について比較的楽観的な者から神経質な者までいる)、現実的に抱えている諸問題(例えば、高齢の親を介護している、子どもあるいは親に持病や基礎疾患があり感染リスクの高い状態にある)のために一概には線引きができないことに留意する必要があります。

4.対話の重要性

セラピストとクライエントの双方で安全性の確保と、カヴァーしきれないリスクがあることを話し合うことは大切です。また、セラピストは、勤務する組織の上司および同僚と、クライエントとセラピスト双方の安全性についての考えを共有し、率直な対話を通して共通認識を持ち、組織内でのガイドラインやルールを構築していくことが求められます。

補足 2

おもちゃの管理について

1. はじめに

ここで述べるのは、感染拡大が小康状態にあり、対面面接によって子どもの不安を支えることが総体的に見て重要と考えられる局面における対応になります。そうした状況下では、通常通りの面接構造を維持することよりも、安全を確保したうえでお互いのつながりを確認できる設定を考えることが優先されるかもしれません。知らない間にセラピストや子どもが感染している状態で面接したとしても、互いの感染リスクを最小限にする会い方を考える必要があります。

2. 感染ルートの整理

COVID-19の主な感染ルートである飛沫感染のリスクは、子どもとセラピストがお互いにマスクを着け、物理的な距離をとることによって軽減できます。その一方で、マスクや顔を知らないうちに触ってしまうことがあるので、手指を介しておもちゃが感染源となる可能性があります。また、マスクを通り抜けてしばらく空気中を漂ったウイルスは床に落ちていくため、おもちゃを床につけて遊ぶことも感染リスクを高めると言えるでしょう。

3. おもちゃ管理の基準

  • 面接室内で子どもがおもちゃに興味をもち手に取ることは自然なことですが、子どもとセラピスト双方の感染リスクを減らし、感染拡大防止に努める必要があります。こうした観点から、プレイルーム内には、他児と共有するおもちゃを極力置かず、その子どものための必要最低限のおもちゃを用意することが推奨されます。
  • 改めて個別のおもちゃを用意することが難しい場合には、プレイルーム内のおもちゃを一度別の場所に移動させ、子どもに応じておもちゃをプレイルームに出し入れすることを検討してみてください。
  • プラスチック製のおもちゃに比べて、紙製や布製のおもちゃは高濃度アルコール水や次亜塩素酸水等で消毒をすると変形や脱色が起こりやすいため、リスク管理が難しくなります。
  • 箱庭やボールプールなどを必要としている子どももいますが、これらのおもちゃを使用後にその都度消毒するというのは現実的に困難です。それらを用いた面接が子どもとセラピスト双方にとって安全なものであるかどうか、慎重に考える必要があるでしょう。
  • おもちゃによっては、使用時に顔に近づけて遊ぶものや、遊んでいる間に不意に顔の近くを通るものがあります。これらも、プレイルームに置いておくかどうか事前に考えておいてもよいでしょう。
  • おもちゃで遊ぶ際に管理・消毒しやすい机の上で遊ぶことについて、セラピストは子どもと話し合ってもいいでしょう。
  • おもちゃをセラピストと一緒に使って遊びたいときにどのようにするかを、子どもと話し合ってもいいでしょう。
  • 紙粘土や描画などの子どもの作品は、消毒すると損傷が出ますので、今のところ厳重に隔離しておくしか感染対策ができません。こうしたことを考えて、子どもごとの作品箱を用意したり、それが難しい場合は消毒すると作品が傷ついてしまうことを説明したうえで、作品作りをするかどうかを子どもと話し合ってもいいでしょう。
  • 面接後に部屋やおもちゃを消毒するための時間を確保するために、面接時間を短縮することも検討してください。

4. まとめ

  • 共有のおもちゃは極力減らし、面接する度に消毒する
  • プラスチック製など消毒しやすいおもちゃを使う
  • おもちゃをなるべく床につけない

補足 3

対面での面接を再開するにあたっての留意事項

1. はじめに

緊急事態宣言やそれに類する政治主導の強力な措置が解除されたり、地域ごとの感染流行の状況、施設の防疫体制の整備などによって、対面でのセラピーを再開する状況が生じてくるかもしれません。そうした際、対面でのセラピーを再開するにあたって、子どもや養育者に伝え、同意しておいた方がいい事柄について紹介していきます。

2. 対面再開の告知にあたって

対面セラピーを再開できることになった根拠を子どもや養育者に相手に応じた説明をしましょう。個人開業であれば心理士本人の判断の根拠を伝えれば十分と思われますが、施設の職員である場合、施設としての判断の根拠を伝えておくことで、職員個人が組織に守られることになります。こうした点で、再開に当たって施設としてのガイドラインを作成することが重要です。
行政措置の解除、近隣の地域の感染者数、検査での感染経路不明者の数、施設の防疫体制など、来談してもらうために安全がある程度確保されていることが子どもや養育者に伝わるようにします。

3. 対面再開の条件提示

感染拡大防止の観点から、下記の点について、子どもと養育者に協力してもらえるかどうか話し合います。

  1. 健康チェック(無症状感染が存在するため、平熱であっても感染していないことを意味しないことに注意が必要です。)
  2. 感染リスクの少ない来談経路で来所してもらうこと
  3. マスク着用を徹底してもらうこと
  4. 玄関や面接室へ入る前に手指消毒を徹底してもらうこと
  5. 下駄箱を使わずに、消毒済みの上履きを使ってもらうようにすること

③、④については、施設の方で備蓄があればマスク・消毒液を用意しておいたほうが不測の事態に対応しやすくなります。セラピストと子ども/養育者がお互いにマスクをつけ手指消毒することで、そうしない場合と比べて感染のリスクを大幅に軽減できます。
➄については、マスクを通過した飛沫が空気中を漂った後に地面に落ちる性質があることから、来談者に協力してもらうのがいいでしょう。床に落ちたウイルスは感染力を失っているという見解もでてきているようですが、ここではより慎重な見解を採用しています。下駄箱や上履きを共有することは感染リスクを高めると考えられます。使用後のスリッパなどは、使用済みとわかるカゴ等に入れてもらうなどして、常に消毒済みの上履きを使ってもらえるように配慮してもいいかもしれません。

感染拡大防止にあたって、セラピストあるいはセラピーを行っている施設は以下のことについて検討し、来談者の同意を得るようにします。

  1. 物理的な守秘性は弱まるが、お互いの安全のために、面接中に換気を行うこと
  2. 手狭で来談者とセラピストが物理的な距離を取りにくかったり、換気がしにくい、または床の消毒が難しい部屋でこれまでセラピーを行っていた場合、より風通しがよく大きい部屋に変更すること
  3. 面接時間を通常より短縮したり、面接頻度を減らすこと
  4. 感染の流行状況によって、再び対面を控える可能性があること、またその基準

④の基準については、各自治体が出している自粛再開の基準を参考にするのがよいかもしれません。

4. 対面再開のリスクについての話し合い

セラピーを行っている施設が感染源となった場合に、来談する家族に起こりえることについて話しあうのがそれぞれのケースで適切かどうか、検討してみてください。以下に挙げるリスクがあるとして、セラピスト/親担当者と子ども/養育者が具体的にどのような対策をとることができるか、ケースによっては話し合うことが重要かもしれません。

  1. 来談している養育者や子どもが感染し、隔離された場合に本人や家族に与える影響(養育環境の変化)
  2. 同居あるいは近所に住む祖父母に与える影響(高齢者は高リスク)
  3. 基礎疾患がある家族に与える影響(基礎疾患を持つ人は高リスク)
  4. 妊婦がいる場合、出産に与える影響(出産場所が確保されているか)
  5. 病院や介護施設などで勤務している養育者の場合、COVID-19を職場に持ち込むことによって生じる影響(高リスク者の多い職場では死者が多数出る危険性がある)

これらを、数字をもとにしてリスクを話し合い判断することは現状では困難です。来談者とセラピストの関係性によってはこうした影響を話し合うことが徒に不安を刺激する可能性があります。しかしながら、こうした影響に対する具体的な対応策を模索した上で対面を再開するかどうかを来談者とセラピストで話し合うことが、現実的な安心感につながる可能性もあります。自分たちが難しい判断を迫られていることを来談者とセラピストで共有でき、進む方向性を探ること自体が、ひょっとすると重要なのかもしれません。

5. まとめ

  • 感染拡大防止のために、子どもや養育者に協力してもらう必要があることや、施設として取り組むことを伝える
  • 感染リスクを最小限にするために、面接構造の変更を検討する
  • 面接が感染源になった場合に起こりうることを、可能な形で子どもや養育者と話し合う

補足 4

支援をめぐる組織のあり方

1. 組織とセラピストの関係

組織のあり方は臨床活動に影響を与え、セラピストは勤務する組織の構造によって制限を受けるとともに、支えられてもいます。組織もまた、所属しているセラピストに支えられていると同時に、セラピストを抱える存在です。組織の規模や体質、そして属する構成員の性質により、様々なバリエーションが存在します。

2. 画一的あるいは無思考的な判断に陥る危険性

見通しがつかず困難な状況では絶対的に正しい判断はありません。すべての危険および不安要素をカヴァーできる対応はないでしょう。このような場合に、重要な検討点を吟味せずに画一的な対応がなされる危険性が高まります。組織を取りまとめる者自身が不安状況にあるために自然な動きでもあります。またセラピストを含めた組織のメンバーも同様にそれを吟味せず同調したり、あるいは同調しなければいけない圧力にさらされることが起きるのも自然なことです。しかし、このような状況に陥っている場合には、その危険性にいち早く気づき、何らかの対応を検討できることが望ましいでしょう。

3. 相互理解に裏打ちされた意思決定プロセス

支援の対応策について、組織のメンバーで対話を行い、どれだけ柔軟に検討できるかは、その組織の体質に依拠しているでしょう。しかし、重要な検討点を率直に対話しようとする姿勢や試みがまずは重要となってきます。組織のメンバーには、いろいろな価値観を持つ者がいますが、組織の意思決定プロセスにおいて、その多様性を共有できることが望ましいでしょう。メンバー全員が納得できる決断をすることは困難だとしても、決定に際しての留意点を見出すことができます。そして、状況の変化や、判断の誤りに応じて、修正する余地を残した決定が可能となります。困難な状況下においてさえも最前の策を見出す組織風土自体が、クライエントを、ひいては組織のメンバーと組織自体を支えることになります。

4. 組織モニタリング

所属する組織のあり方を普段からモニタリングし見立てていることが、このような状況下においては特に重要となってきます。その際、セラピスト自身の状態も組織の一部としてモニタリングする必要があるでしょう。そのような視点を維持するために、単発のコンサルテーションを受けることは役立つかもしれません。

5. ガイドラインを用いた対話

セラピストの臨床実践の場、そこで勤務する同僚、上司など、組織全体で既存のガイドライン(例えば、本ガイドライン)を共有し、対話のきっかけとすることで、それぞれの組織に適したガイドラインや支援の対応策を作成することも有用でしょう。協働作業による意思決定プロセスを経ることは、組織力を高めることつながります。

6. 最適な支援の可能性と限界

組織における最適な支援の可能性あるいは限界は、現実の社会情勢を踏まえた上で、組織の持つ構造、セラピストのキャパシティ、クライエントの許す環境という3つの要素に依拠していると考えることができます。提供する支援を検討する際に、「①クライエント」―「②セラピスト」―「③支援を提供する場や組織」という3者の最大公約数と捉える視点を持つことは意味があるでしょう。

7. 支援方針の調整

6.の①②③の3者は社会状況に影響を受けており、さらに3者の最大公約数として決定された適切かつ妥当と思われた支援は、ひとつの要素が大きく変動することで、その適切性と妥当性を欠くことになる可能性があるでしょう。先行きのわからない状況においては、膠着化した意思決定ではなく、状況に応じた支援方針の調整可能性を常に保持しておくことが重要になってくるでしょう。

8. オンライン面接の導入とセラピストのキャパシティ

非常事態下にあっては、組織によってはオンライン面接が導入される場合があります。しかし、オンライン面接についてセラピストが十分に安全感を持てていない状況では導入は控えることも検討される必要があるでしょう。安全感のなさが慣れていないということから来ているのか、オンラインというツールに対する不安や信頼できなさがあるのかなど、セラピスト自身の感覚について検討することは意味があるでしょう。前者が大きい場合は、研修や訓練、練習などの経験を重ねることで乗り越えることが可能な場合もあります。後者が強い場合は、クライエントが承諾し、組織も許容できるならば、例えば電話など、オンライン以外の対応も検討できる余地を残しておくことは大切です。

補足 5

オンライン実践の評価、見通し、先への対策について

1. はじめに

緊急事態宣言が発令される中で、子ども/養育者とセラピスト/親担当者双方の安全を確保するために、オンラインでのセラピーに移行したケースもあることでしょう。その実践をどう評価するかについては現状で難しいことである一方で、対面からオンラインでのセラピーに移行した際の子ども/養育者とセラピスト/親担当者の関係性を始めとした様々な変化に注意を向けることは重要と思われます。というのも、緊急事態宣言が解除されたり、各自治体の自粛が解除された後も、第2波、第3波が来る場合も想定しながら面接構造を考えていく必要があり、今後再度感染拡大が起こってきた際にどのようなセッティングでセラピーを行うか、コンタクトを維持していくかを考えていく上で、参照点になると考えられるからです。

2. オンラインへの切り替え後の反応

  • セラピスト/親担当者と来談していた子ども/養育者の関係性によって、様々な反応があり得ますが、オンラインへの切り替えの影響についてセラピスト/親担当者と子ども/養育者の双方が冷静に考えられるようになるには時間がかかります。切り替え後1・2回の関わりだけで、オンラインへの切り替えについて適不適を評価するのは控えておく方がよいでしょう。
  • ある人は切り替え直後にオンラインへの移行によってセラピスト/親担当者からの拒絶を体験したと訴え回数を重ねる中で徐々に安全な関わり方でもあることを発見していくかもしれません。
  • ある人は当初は切り替えに柔軟に対応していたかにみえても、経過の中でオンラインでのやり取りの辛さを訴え始めるかもしれません。
  • 対面セラピーを行っている段階で自傷他害が見られたケースについては、オンラインへの移行後にそうした行動化が高まる可能性を想定して、家族や関係機関など安全を確認でき、なおかつ直接的に介入ができる人々とセラピスト/親担当者の協力関係があるかどうかを改めて確認する必要があります(2. 対⾯の臨床活動の停⽌、⾮対⾯臨床活動への移⾏検討時のリスクアセスメントおよびリスクマネージメント を参照のこと)。
  • 移行後に様々な人々の協力を得て、クライエントによる自傷・他害行為の増加が明らかになったケースについては、難しい判断が求められます。
  • 移行後に自傷・他害の増加したことがオンラインへの移行による影響かもしれないことを話し合い共有することで不安を軽減できるケースもあれば、不安を考える余地がなくなっていて行動化によって対処するしかなくなっていると見立てられるケースもあることでしょう。
  • COVID-19の感染が拡大している状況下では、子ども/養育者の不要不急の外出が増えているといった話題が出た際に、そうした外出が自傷に相当する可能性を考えてみる必要があるかもしれません。
  • オンラインへの移行による不安の高まりによって、かえって身体的な安全も脅かされていると見立てられる場合には、早急に対面での面接の再開を検討してみてください(1-1. レベル4: 対面臨床活動の再開 を参照のこと)。

3. 見通し、先の対策について

  • 社会活動の自粛で感染拡大が一度封じ込められたとしても、現時点(2020年5月末)ではCOVID-19の感染力が弱まったり、治療法が確立したというわけではありません。
  • こうしたことから、社会活動が再開されると再度同じような状況になるかもしれないことを見通しておく必要があります。
  • 感染拡大が小康状態になったら対面でのセラピーを再開するのか、オンラインへの移行後の構造を維持して第2波、第3波に備えるのかについては、子ども/養育者とセラピスト/親担当者でよく話し合う必要があります。
  • セラピスト/親担当者側も見通しが持ちにくいことを否認するのではなく、できるだけそうしたことから生じる不安についてオープンでいることや、そうした不安を共有できる仲間(スーパーバイザーや同僚との話し合い)がいることが必要かもしれません。

補足 6

オンラインセラピーによる疲れについて

Zoomなど、オンラインミーティング用のアプリケーションを使ったセラピーも多く実施されるようになりました。しかし、そのような活動にはいつもよりも疲労感が強まる可能性も指摘されています。ここでは、BBCやnational geographicが取りあげた記事を参照しながら、そのようなオンライン疲れについて取りあげます。

1. 非言語コミュニケーションの制限や違いによる疲労

  • 肩から上の映像だけを手がかりに相手の非言語コミュニケーションを読み取ろうとすることによる疲労。対面では、体の向きや手の動き、貧乏ゆすりをしているかなど、体全体のコミュニケーションを拾うことが出来るが、オンラインでは顔の動きだけに限定されてしまい、安心感を共有しづらい。
  • 視線を合わし続けることによる疲労。対面であれば、視線を合わさないで会話する時間も長いが、画面ではどうしても相手を見て話す時間が長く、そのような持続的な視線は時に過度の親密性や脅かしの体験となりやすい。
  • グループミーティングなどでは特に、本を読みながら料理をするのが難しいように、脳は映像のどこに焦点を合わせて良いか分からず、情報過多に陥りやすい。
  • 一方、自閉症など発達や知能に障害を抱える人たちの間では、「いつ発言すべきか分かりやすい」などの理由で活用しやすいと感じる人もある。

2. 回線や技術的な側面からくる疲労

  • 沈黙は、回線の不安定さへの心配にもつながりやすく、保持されることが難しい。
  • 相手の反応が遅れることで相手が集中していない、友好的ではないと感じてしまい、親密性が築かれにくい。
  • オンラインで実施しているという事実が「会えない現実」を都度思い出させ、パンデミックへの不安などを喚起する。
  • 会議、友人や家族とのおしゃべり、他の職場とのやり取りなど、多彩なミーティングが実施されるのと同じ画面で面接も起こるため、異なる現場に出向くことで保たれていた境界線が機能しにくい。
  • 対面であれば、脳が分別出来る必要・不要な情報(無視すべき雑音なのか相手の声なのかなど)について、機器を通すことで全て同程度に入ってきてしまい、無意識的な情報処理がしにくい。

疲労感が強まる場合、映像の使用は最小限に留め、大人数の会議などでは映像を共有しないなどの工夫も必要かもしれません。また、面接でも映像の使用の有無や使用するタイミング(セッションの最初と最後だけ映像を使用するなど)を来談者と相談し、両者にとってより実施しやすい方法を選ぶことは重要かもしれません。

資料:
https://www.nationalgeographic.com/science/2020/04/coronavirus-zoom-fatigue-is-taxing-the-brain-here-is-why-that-happens/
https://www.bbc.com/worklife/article/20200421-why-zoom-video-chats-are-so-exhausting

資料 1

オンライン⾯接の有効性

CBT アプローチを使った研究では、破壊的⾏動障害や強迫性障害への親⼦治療プログラムについてオンラインと対⾯で実施した RCT 研究もされており、治療継続率、治療効果、効果持続性において、いずれも2つに⼤差がないことが⽰されるなど、オンラインの活⽤が⼼理療法にとって⼀つの有効な⼿段となり得ることが⽰唆されています。

Journal of Consulting and Clinical Psychology 2017, Vol 85, No2, 178-186
http://dx.doi.org/10.1037/ccp0000155

Journal of Consulting and Clinical Psychology 2017, Vol 85, No9, 909-917
http://dx.doi.org/10.1037/ccp0000230

精神分析アプローチにおいても、1988 年には“Psychoanalysis by telephone”がBulletin of the Menninger Clinic に掲載されるなど、⻑きにわたり遠隔治療の試みは続けられてきており、特に国⼟が広く、国内移住や移動の多い北⽶では患者の出張や転勤に応じて電話やネットを使って治療を継続する⽂化は⼀定根付いています。オンラインによる精神分析的⼦どもの⼼理療法については、Sehon(2018) による事例研究にも詳しく記述されており、下記のような点が指摘されています。

  • ⼦どもたちはオンラインでのコミュニケーションに⽇頃から⼗分に親しんでおり(digital native)、その抵抗は⼤⼈が思うよりも低い。
  • 対⾯が中断される期間に遠隔での治療を継続することのリスクとメリットを⼗分に精査することが重要。
  • この期間の遠隔治療について話し合い、同意書の更新も含めて明確なコミュニケーションのもとに始めること。
  • トラウマや愛着の問題を抱える⼦どもがセラピストを⻑期間にわたって「失う」ことのインパクトを考えることは必要。
  • すぐに遠隔治療を始めない、⼦どもや親がそれを希望しない場合でも、遠隔治療の可能性があることを提⽰しておくことは⽀援的。
  • オンライン⾯接について、⼦どもとの間で⼗分に話し合い⾃由に不安や期待を表現できるよう配慮する。
  • オンライン⾯接中は、セラピストの画⾯に⾒えている映像(⼦どもの顔が見切れていたり、遊びが⼗分に⾒えないなど)を⼦どもに⾔葉で伝え、何が映っていて何が映っていないかも、⾯接過程の⼦どもの表現やコミュニケーションの⼀つとして配慮すること。
  • オンラインでは、セラピストも⾔葉に頼りやすくなることから、いつもよりも知識化 intellectualized された解釈や⾔葉がけをしやすくなることに留意すること。
  • オンライン⾯接移⾏へのアセスメント:⼦どもの遊ぶ⼒は⼗分に確保されそうか、⼦どものコミュニケーション能⼒は⼗分か、治療同盟(画⾯を通してセラピストの存在を感じることが出来る治療関係の内在化)が出来ているかどうか。治療テーマや見立てが定まっていない段階ではオンライン⾯接でワークを続けることは難しい。
  • ⼦どもにも画⾯の調整(セラピストに⾒せたいものを⾒せること)や⾳量などの管理が求められることから、⾯接におけるコミュニケーションへの積極性を引き出す機会にもなり得る。
  • ⼦どもが必要としている⽀援に照らし合わせて、オンラインの可能性があるにも関わらず⼀律に治療を止めてしまうことは⼦どもの治療への権利を剥奪するものであり、それ⾃体が⾮倫理的であると考えることも出来る。
  • 効果研究については、研究が待たれる状況にある。

Sehon, Caroline M. (2018). “Teleanalysis and teletherapy for children and adolescents?” In Sharff, Jill S. (Eds), Psychoanalysis online 2: impact of technology on development, training, and therapy. London. Routledge

資料 2

外出自粛下でチームとして活動するために
-ECID(Equip Clínic d’Intervenció a Domicili スペインの若者支援団体)

無期限の外出規制が発令されている中、支援対象者そしてその家族と以下の2つの目標を持って繋がり続ける必要性が生じている。

  1. 規制前にすでに築かれていたアタッチメント関係を壊さない。
  2. 今までとは異なる新しい状況で支援を提供する。

この事態に現実的に対処するためにいくつかの原則を4つのAMBIT(Adaptive Mentalization Based Integrative Treatment)領域に分けて提示する。

1. Team(チーム)

  1. 支援者自身も規制下にあり、これまでにない困難や脆弱性の中にある。それだけをもってしても、支援者自身がチームによってサポートされることが今こそ重要であると言える。そのため、毎朝始業時に話が出来る場所を見つけてミーティングを設ける。仕事の話(業務全体の話)、支援対象者に関する話(状態が悪くなっているかもしれない中で、何も支援を提供出来なくなるんじゃないか?今までやってきたことさえ全て水の泡になるんじゃないか?という不安など)、そして自分たち自身がこの事態にどう影響されているかという話(家族とはどうしている?子どもがずっと家にいるのは大変?など)
  2. 在宅で仕事をすることの難しさについて話し合い、考えを共有する。特に仕事(ビデオ電話、電話、ケース記録など)と家の仕事(家事や子育て)が重なっている支援者の抱える困難に留意する。家の仕事は、在宅学習になっている子どもの宿題をみたり、幼い子どもからは全く目が離せないなど、いつもにも増して忙しい状態がずっと続いていることに留意する。
  3. 社会的な状況や支援を必要とする人の増加によって、医療従事者(healthcare staff)は、ヒーローとして危険な状況に向かい続けるプレッシャー下に置かれやすくなる。総合病院などでは前線で働く同僚を想い、自分たちも頑張らなくてはと無理をしやすい。チームは、構成メンバーがそのようなヒーローや万能的な存在にならないといけないと決して感じなくても良いように、ともに冷静に考え続けられるようサポートする。
  4. チームは、政府や機関から出される新たな情報を常に入手し、整理していく。対応やスタンス、人事も頻繁に更新されるため、常にチームが公私に渡る情報を共有し、一緒に考えられる状態を維持することが重要である。

2. Client(支援対象者)

  1. これまでに設定され同意されてきた介入目標は一旦ストップになり、新しい目標の設定あるいは目標の改訂が必要になる。
  2. 対象者と家族によっては、規制期間中は支援者にも会いたくないという人もあれば、期間中こそ、より支援を必要とする人もある。
  3. できる限りActive Panningをする。支援の意図を対象者に伝える。対象者のニーズ、要望、可能性を聴きとり、総合的に判断して合意を結ぶ。
  4. フォローアップの方法は、電話、テキストメッセージ、ビデオ電話などいくつか用意し、対象者や家族の状況に応じて選んでもらう。
  5. 家庭によっては、外出規制でプライバシー保護が難しくなるということに留意する。家族などと狭い部屋に一緒にいる時間が増える対象者もいるかもしれない。
  6. この時期をどのように過ごすのが良いのかをアドバイスすることは出来るが、対象者や家族によっては、私たちから見て「病理的な」やり方でこの時期を乗り越えようとする人もいるかもしれない。しかし、それは恐らく規制下において、彼らが自分たちの置かれた住環境や対人状況の中で選ぶことの出来た唯一のやり方であったかもしれない。
  7. 支援者もまた同じ外出規制の環境にあるという事実は、対象者やその家族が支援者やチームとの平らな関係を持つことを助け、支援者やチームに対して興味や思いやりを持つ機会を提供する。

3. Networks(ネットワーク)

  1. この状況下では、他の医療機関や行政機関も同じようなストレスを抱えた状況にある。
  2. 重篤なケースでは、益々資源が少なくなり、得られる資源の質も下がってしまうなど、それまで積み上げてきた支援が後退することもある。
  3. この状況は、否応なくチームや支援者が「考えること」を継続しにくくさせる。(チームメンバー間や他機関のスタッフとも一緒に考えることが難しくなる)
  4. しかし連帯の感覚を生かして、別のチームやネットワークとの繋がりを創造的に生み出すこともまた可能かもしれない。
  5. 電話やビデオ電話、テキストなどを使って、他機関との連絡やリファーについてのやり取りを維持する。

4. Learning at Work(学びながら前進する)

  1. 難しい状況は、学びの機会でもある。
  2. 新たなテクノロジーは、対象者や家族と治療関係を続けるための手立てとして認識されるべきである。これらの手立てに馴染んでいくことで、この期間終了後に、これらの手立てを私たちがどう活用していくのかについても考えていくことが出来る。
  3. 学びのスペースは出来るだけ確保する。
  4. スーパービジョンの体系は維持する。
  5. 規制下にあっても提出物が進められるように、学生の受け入れを続ける。
  6. 外出規制が対象者や家族にもたらす影響に関する研究に協力する。
  7. 自分たちの活動を記録していく。このマニュアルも、それを続けてきたから可能になったものだ。

落ち着いて、学び続け、マニュアルづくりも忘れずに!

ECID: Equip Clínic d’Intervenció a Domicili (スペインの若者支援団体)
http://www.fvb.cat/assistencia-publica/ecid-2/

AMBIT: Adaptive Mentalization Based Integrative Treatment
https://manuals.annafreud.org/ambit/index.html

資料 3

オンライン面接導入における説明書の内容例

  1. 通常の対面での面接との違いについて説明する
  2. 使用する媒体の使用方法について説明する。セキュリティの問題についてクライエントに協力を促す
  3. オンライン面接を行う望ましい環境について説明する
  4. オンライン面接中に不具合が生じた場合についての対応について説明する
  5. 情報漏洩防止について具体的に説明し、協力を促す
  6. リスクと緊急時の対応について説明する
  7. 料金と時間について説明する
  8. キャンセルの対応と予約方法について説明する
  9. 支払い方法について説明する
  10. 未成年の場合、保護者の同意を得る必要があること

*同意書には、セラピスト、クライエントの双方の連絡先を記しておく。また、未成年の場合は、常に連絡がとれる保護者の連絡先を記してもらう。

資料 4

オンライン面接導入に向けてのセラピストの準備、クライエントの準備、およびリスクアセスメント

この資料は、The Association of Child Psychotherapists (ACP)によるGuidance on working remotely with children,young people and familiesを参考に作成しています。ACPは子どもと青年の精神分析的心理療法士の団体であり、本ガイドラインは特定のオリエンテーションに関わりなく適用できる内容ではありますが、精神分析の立場での臨床を主に念頭において書いてある部分があります。

1. はじめに

オンラインによる面接導入については、拙速な判断を行うべきではありません。クライエントのニーズや感染状況の長期的な展望のもとに、クライエントの福祉を最優先に、一つの選択肢として検討を行うべきでしょう。
自殺念慮や自傷のリスクのあるクライエントには、オンラインによる臨床活動は適さないとされていますが、そうした方法でしか接触できないクライエントとセラピストがいるでしょう。危機介入のリファー先や情報をアップデートしておくこと、セラピスト自身の力量を見定め、複雑で困難な状況ではスーパービジョンを活用することが重要です。

オンライン臨床活動に際して、以下の事柄について注意深く検討すべきです。

  • 子どもとその家族のオンライン臨床活動への適性
  • セラピストの力量レベル
  • 使用するオンライン技術の妥当性
  • 危険性のレベル
  • 子どもを取り巻くチームやネットワークが遠隔臨床にどの程度対応できるのか
  • オンライン臨床活動への適切なスーパービジョンがあるか

2. オンラインセラピーへの適性をアセスメントすること

すべてのケースについて、遠隔セラピーを提供することの意味について十分に検討されるべきであり、クライエントとともに話し合うべきです。遠隔セラピーの設定はとても異なっており、クライエントに対して広範囲にわたって多種多様の影響を与えます。
 すべての子どもと若者がオンラインの設定を利用できるわけではありませんし、セラピストも同様です。

  • 親/養育者はその方法を支持しているでしょうか?秘密をもつことへの子どものニーズを理解し、子どものための確かで秘密を守られるスペースを用意する必要があります。こういった設定を支えるキャパシティが養育者にはあるでしょうか?
  • 子どもや若者は遠隔支援にアクセスできるでしょうか?年齢、心理学的問題の性質、オンラインの設定や電話という方法に関わり、利用できる能力などを考慮する必要があります。
  • 座って話せる子どもがいる一方で、遊び、よく動く子どももいます。どの子どもについても遠隔支援の実用性を検討する必要があります。
  • その子どもはすでに対面での設定を経験してきており、セラピストとの協働関係(作業同盟)はすでに成立しているでしょうか。始まったばかりのセラピーよりも長期間続いているセラピーの方が新しい方法に移行しやすいかもしれません。
  • オンラインで取り組むにはリスクのレベルが非常に高すぎるか、もしくはオンラインではリスクをアセスメントができないことはないでしょうか?リスクには、遠隔支援の最中や会っていない間に起こる環境からもたらされる外的要因と、自傷のリスクという内的要因があります。
  • 家族や知人が、遠隔支援を行う部屋や電話/インターネットの接続を妨害しないプライベートな空間を自宅に設定できるでしょうか。
  • オンラインのセッティングでセラピーを行うことでリスクを高めることにならないか検討してみましょう。例えば、セッションの録音や録画、オンラインで外部に流出されること等。
  • 親のサポートがあっても、その設定で行うには子どもが幼すぎるということはないでしょうか。

3. 専門性と良質な実践

遠隔セラピーに関して、治療者は自分の力量レベルや、自分がこの方法に合っているかを考える必要があります。自分の個人的な要因についてもそうだし、遠隔セラピーをするための適切な空間があるか、技術的な問題や、実践上の課題をなんとかできるかなども考える必要があります。治療者は定期的なスーパービジョンを受けたり、同僚とのピアスーパービジョンに努めましょう。新しい方法に取り組む際には、より頻繁なスーパービジョンが必要であることをまず指摘しておきたいと思います。
 遠隔セラピーには面接とは異なる技術が要求されたり、特有の課題がありますが、底に流れている治療的なアプローチとスタンスは同じです。

4. 機器の設定や使用法の習熟

ビデオ形式で行うことを考えているなら、適切なプラットフォームを選びましょう。そのプラットフォームはend-to-endで暗号化されているか、セッションが記録されるかどうか、もし記録されるならどこに保存されるのか、などを見ておきましょう。また、誰が記録を所持するかも考えましょう。プラットフォームのなかにはセッションを記録して、匿名化されビッグデータの収集に用いられるものがありますが、こういったものは避けるべきでしょう。
 有料サービスのセキュリティの高いビデオ通信を用いるのがベターです。健康サービスの専門家は高いセキュリティレベルを保つ必要があります。特定のプラットフォームを支持するわけではありませんが、Doxy、zoom Pro、Vsee、Skype for Business、Microsoft Teamsなど見てみるといいでしょう。重要なのは、最適なセキュリティと使いやすさです。
 また、セラピー用のemailアカウントや電話番号を用意することも必要です。
 セラピーで使う媒体の強みと感じられるところを確認してください。そして、その媒体の機能やボタンがどうなっているか確認してください。もしこれまでオンラインでのセラピーを実践したことがないのであれば、友人や家族との間でまず使ってみてください。セッションが始まる前に、ログインするための時間や、ネットにつながっているか確認するための時間を確保してください。

5. セッションを準備する

オンラインでの仕事を安全にすすめるためには、プライベートで秘密の守られる治療空間が重要になります。つまり、気が散ることがなく、うるさくなく、誰かが入ってこない空間です。ビデオ通信を用いるときには、背景に個人情報が映らないように確認しましょう。プラットフォームの中には、背景をぼかしたり、特殊なスクリーンが利用できるものもあります。また、クライエントにも同様の方法を用いるように伝えることもできます。
 面接の前には毎回、デバイスが接続されているか、充電が完了しているか、良好な通信環境にあるかどうかを確認する必要があります。気が散ることなく、面接でのやりとりに集中することが重要です。この新しい媒体では、クライエントに集中するのはいつもより疲れるでしょう。リスクが心配な場合は、必要に応じて他の支援を得られるように、勤務時間中に面接を行うようにしてください。

6. 同意について

オンライン臨床活動について、クライエント(そして必要な場合は、親/養育者)からきちんとした同意を得ることが必要です。
遠隔セラピーのためのどのような媒体であっても、クライエントがその媒体でセラピーを受けることに同意したことを確認し、その同意を記録したことを確認してください。

  • クライエント(子どもや若者)が親/養育者の端末(あるいはオンラインプラットフォーム)を使うので、親/養育者がその治療方法と端末を使うことに同意することは必須です。
  • クライエントと親/養育者に、遠隔でのセラピーでできることの限界について明らかにしておきましょう。
  • 使用するプラットフォームのセキュリティのことをクライエントに説明できるようにしておきましょう。
  • セッションを録画(録音)することは許可していないことと、セラピストも録画(録音)していないことをクライエントに明示することを考えてみてください。

7. 明確な見通しと境界

クライエントあるいはその親/養育者と明確な見通しを立てて、境界をつくる必要があります。クライエントとともに、以下に述べるようなオンラインセラピー用の契約を行うことを検討してください。

  • 静かでプライベートな部屋が必要です。部屋への侵入がなく、電話回線も邪魔されない、あるいはオンラインのプラットフォームにわかりやすくたどり着けるような環境です。このことは親/養育者向けにアレンジされる必要があるかもしれません。
  • セッションの始まりと終わりを考える必要があります。通常は、クライエントが部屋にやってきて、終わりの時間を告げられて出ていくことでセッションの始まりと終わりが決まります。オンラインでも、クライエント/養育者に、セッションが始まる時間にコンタクトを取ってもらい、終わるときは治療者が時間を告げるようにしてもいいかもしれません。
  • あなたが話し始める前に、話そうと思っている相手かどうか確認してください。
  • クライエントが通話中どこにいるか治療者がわかっていること、そして治療者が守秘義務を守れるような場所にいるとクライエントが知りたいと思っていることを治療者が考えることは重要です。
  • 治療者の電話やオンラインプラットフォームの通信が途絶えたときに備えて、やりとりするためのバックアップは欠かせません。クライエントがセッション中でも必要に応じて参照できるような、例えば、他の電話番号や、メールアドレスといったものがいいでしょう。こういった状況が起こった時には誰が誰に連絡するのかを決めておきましょう。
  • クライエントがセッションにやってこない場合セラピストがどうするか考えておく必要があります。技術的な問題が発生しているのか、ケースの展開で起こっていると考えるのか、クライエントと連絡を取りますか?
  • セッション以外の時間でどのように連絡を取り合うかについても準備しておきましょう。そして、どういう状況下で(例えば、治療者やクライエントが病気になった場合など)連絡するかも考えておきましょう。
  • 通常の境界は維持するようにしましょう。セッション以外の時間でクライエントや親/養育者がどのように治療者に連絡をとるか、その逆も考える必要があります。例えば、実践する上での取り決めなどです。セッション以外でのやりとりを治療的なものと区別しておくことで、クライエントと連絡を取る際に、今はセラピーをしようとしているわけではないということがクライエントにとって明確になります。セッションで用いるプラットフォームと同様に、個人的な連絡がとれる端末ではなく、しかもハッキングされるようなものではないものが必要です。仕事のための電話番号やメールアドレスが必要でしょう。セッション以外の時間でのやりとりの境界は明確である必要があります。そうすることで、クライエントはセラピストがすぐに反応できないかもしれないということがわかります。

8. 子どもとの遠隔セッションの実施

  • 子どもとの遠隔個別セッションに乗り出す前に、そのやり方がその子どもや家族とセラピーをしていく上で適切なやり方かどうか、慎重にアセスメントしてください。その際、上(Assessing the suitability of offering online therapy)にあげたようなリストを考慮に入れてください。個別の面接の他にも子どもや家族を支える他の方法があるかもしれません。例えば、親や養育者と同席で行うことなどもあります。
  • 子どもの親/養育者からの信頼のできる協力的なコミットメントを得ることが欠かせません。あなたの同僚が親/養育者の支援を担当しているのなら、子どもの担当者、親/養育者の担当者、親/養育者の3者で、遠隔セラピーを始めるにあたって緊密なやり取りをする必要があります。
  • 作業を始める前に、親/養育者と「5.セッションを準備する」に挙げたような問題をカバーする契約を結びましょう。親/支援者と、オンラインでのセラピーが実際に役立っているかを振り返りましょう。もしオンラインが役立たないように感じたなら、早急に振り返りを行う必要があるかもしれません。
  • オンラインセラピーを始める前に、親/養育者と(可能であれば子どもも、といっても、大抵子どもや若者はいやがるものなのですが)会って、セラピーの明確なパラメーターを準備しましょう。
    ① セッションのための子どもにとって安全な空間と時間
    ② セッションのプライバシーがどのように守られるか
    ③ PCを誰が用意するか、誰がセッションの時間の前にWi-Fiがつながっていることをチェックするか
    ④ どのようにセッションを始めるか/終わるか
    ⑤ 子どもが電話/インターネットの接続を切ると何が起こるか
    ⑥ インターネットの接続が弱かったり、途切れると何が起こるか
    ⑦ 子どもがトイレに行きたくなったらどうするか
    ⑧ オンラインセラピーで使う特定のおもちゃを家庭で準備できるでしょうか。その家族の文脈でそれは良い方法でしょうか。またセッション以外の時間、そのおもちゃを安全に保管しておくにはどうするのが良いでしょうか。
    ⑨ 必要な時に、セッション以外の時間で親/養育者と治療者は連絡をどのようにとりますか。例えば、子どもがとても動揺していて自分を傷つけたり危険にさらしている時などです。
  • セッションの頻度を考えましょう。以前と同じ頻度を維持することが、役立つこともあればそうでないこともあるかもしれません。
  • 枠の変化を記録したカレンダーがあると、新しい枠になれない子どもや親にとっては、不安を抱えるのに役立つかもしれません。
  • 枠を維持することの重要性を思い出しましょう。同じ時間、同じ空間、毎週同じ曜日、関係性について考える必要性、といったことです。
  • 通常の臨床と同様に、安全性に関する懸念がある場合にネットワークとの連携を保持していくことは必須です。通常のように発生するリスクや安全性の懸念をどのように(関係機関に)報告するのか、面接の秘密が守られていることと同時にその(守秘の)限界についても、保護者や子どもに(年齢に応じて)どのように知らせるのか計画しておく必要があります。

9. 思春期の子どもとの遠隔セッションの実施

  • 治療を始める前に、親/養育者が関与しサポートする必要がある範囲をアセスメントすることが重要です。リスクが高いほど、また思春期でも年齢が低いほど、これは必要です。対面での面接と同様、親の関与の程度について子どもと話し合うことが重要です。
  • 対面での面接と同様に、個別の親面接を提案する場合があります。非常に脆弱な思春期の子どもために、親/養育者との合同セッションは、より多くの抱えるためのスペースを提供するかもしれません。
  • これに加えて、例えば、子どもが非常に動揺したり、自殺の危険があると感じた場合など、セッション中に親に関わってもらうことについて話しあっておくとよいかもしれません。
  • 対面での面接と同様に、守秘義務の限界について明確にする必要があります。これは、リスクに関わってくるような安全性やその他の問題がある場合です。懸念がある場合は、様々な領域の専門家同士のチームまたは同僚とリスクの問題について話し合う機会が不可欠です。
  • 電話などでは通常よりも設定の境界を越えることは容易で、これには注意深い管理と解釈が必要になります。
  • 若者はセッションの境界を理解するのは大人よりも大変かもしれません。そして、彼らは「治療」を行うために他のコミュニケーション方法(Eメール、各種メッセージ媒体など)を使用するかもしれません。セッション以外でのやり取りがミニセラピーセッションになることがないように、クライエントからのメッセージに返答するには技術がいります。

10. 技法の問題

あなたの臨床でのコミュニケーションの仕方を遠隔セラピーのセッティングに適合させていくやり方を考えましょう。セラピーの背景と設定が異なることや、そのために関係性に影響を与えることを認識することは重要です。こうした異なる媒体を通じた面接が役に立つよう、技法を発展させる必要があります。面接での技法が自動的にそのまま遠隔セラピーに使えると考えるべきではありません。治療者とクライエントはお互いにメディアを通して関係していますから、考慮すべき複雑な事柄が加わってきます。

  • 映像つきでやり取りする場合、できるだけ多くの非言語的コミュニケーションが画面に映るようにしてみるのもいいでしょう。頭だけ映るよりも、上半身が映っている方がいいかもしれません。クライエントにも同様にしてみませんかと伝えることもできます。
  • 回線がゆっくりの場合には、話すスピードをゆっくりにしたり、わかりやすい言葉遣いをする必要があるかもしれません。
  • 画面に映る際の照明と背景は重要です。単純で落ち着いた暗い色の背景で治療者の顔にダイレクトに照明があたるようにするといいかもしれません。特に、回線の品質が低い場合には重要です。
  • 画面に映る周りの状況がクライエントにあたえるインパクトについても意識する必要があります。例えば、普段別の用途に使っているような家の様子がわかる状態でセッションが行われると、奇妙な感じを与えることでしょう。その場合、クライエントの空間に治療者が侵入しているように感じるか、クライエントが治療者の空間に侵入しているかのように感じられるかもしれません。遠隔セラピーでは治療者のことは遠くに感じられるかもしれませんが、治療者の顔はとても近く感じられるかもしれません。
  • 多くのプラットフォームで自分の顔が映るようになっているため、スクリーンの隅に自分の顔画像が映るように設定して、なおかつそれに気をとられないようにしておかないといけません。クライエントも同じようにしてもらいましょう。
  • 接続が急に弱まったり切れたりする可能性があるため、そういった場合のクライエントへの影響を考えておくことが重要です。
  • クライエントが話したり動いたりして、治療者にはっきりと聞こえなかったり見えなかったりする場合があります。オンラインでは、質の異なる沈黙があります。それに、子どもや若者とのやりとりでは、敵意、苦痛、混乱、退屈などを伝えるために、突然回線を切ってくることがあります。
  • 特に幼い子どもとの間では、親に介入してもらわないといけないような調整不全の状態が多く起こるかもしれません。
  • 治療者はこうしたことがらを何とかやりくりし、そうした出来事の意味を適切に解釈する必要があります。

11. 危機管理と保護

対面での面接と同様に、クライエントやその子ども・家族を含めた援助専門家と細やかに連絡をとることは必須です。必要に応じて、他の専門機関と連絡を取りましょう。ただし、子どもを取り巻くそのチームやネットワークが、遠隔で対応できるかどうかを確認する必要があります。オンラインや電話においてリスクを管理することは、対面での面接における原則と同様です。もし不安があるなら、ソーシャルサービスに連絡してください。
通常の臨床と同様に、安全性に関する懸念がある場合にネットワークとの連携を保持していくことは必須です。通常のように発生するリスクや安全性の懸念をどのように(関係機関に)報告するのか、面接の秘密が守られていることと同時にその(守秘の)限界についても、保護者や子ども(年齢に応じて)どのように知らせるのか計画しておく必要があります。
対面での面接で得られる非言語的なサインのすべてを拾うことができない方法で面接を行っており、かつ、クライエントは遠く離れたところにいるので、他の専門家に連絡をとる際の基準を定期的に見直す必要があるかもしれません。
リスクをアセスメントすることとリスクを管理することは治療の間ずっと続くプロセスです。もし判断に迷った時には、必要に応じて緊急に臨時のスーパービジョンを受けるように努めましょう。

12. インターネットでアクセス可能な治療者に関する情報

オンラインでセッションをすると、治療者がインターネットで検索される可能性がでてくるかもしれません。ソーシャルメディア上でも専門的なイメージを維持することは重要です。インターネット上でのふるまいを確認しておきましょう。
 治療者がオンラインや電話相談のオプションを提供していることがわかるように、職場のサイトやリンクをアップデートするのを忘れないようにしましょう。

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