サポチル NPO法人 子どもの心理療法支援会

コラム

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子どもとその家族が健やかな毎日をすごせるために

 子育ての節目で、ふと自分の子育てに行き詰まることがあると思います。これで良かったのだろうか、何か間違ったことをしてしまったのだろうか、どうしてなのか全く分からなくて悩むことともあるかと思います。もちろん、子育てに正解などはないことは周知のことです。養育者もまた人間である以上、苦しみや悲しみがあるのは当たり前のことで、生きていくために家事やお仕事もしなければなりません。そのようななかで、子どもたちの困り感に対峙していくのは並大抵のことではありません。私は、何か突破口を求めて来られた養育者の方々と子どもたちにお会いしています。養育者の方々も子どもたちも、お互いに大嫌いだけど大好きなので良い関係を作りたいと確かに思っておられますが、なかなか上手くいかず難儀されているようです。

 子どもの精神分析的心理療法士の資格を得るための最初の訓練に、生まれたばかりの赤ちゃんを満2歳になるまで毎週観察する「乳児観察」があります。私が観察を始めた生後2週間でもう赤ちゃんは、家族の声が聞こえると体をしきりに動かして合図していました。特にお母さんが通りかかると一生懸命目で追っていました。お母さんもまた、ただ泣くだけで言葉を持たない赤ちゃんの訴えを一生懸命に理解しようとしていました。ある日、お腹もいっぱい、オムツも換えたばかり、暑くも寒くもない、痛いところもなさそうな赤ちゃんがまだ泣き続けていました。困り果てたお母さんが「どうしたの?」と抱き上げると、赤ちゃんは泣き止み私にドヤ顔をして見せたことがありました。この時私は、養育者と子どもが出会った時からすでに、お互いに、分かってほしい、分かりたい、良い関係を作りたいと思っていることを確信しました。それがいつの間にか、何かの拍子にお互いに困り感を抱えてしまうのです。

 心理療法では、例えば学校に行きたくないと言う子どもに対して、どうしたら学校に行けるかではなく、学校に行きたくないのはどうしてか、つまりその子がどんな子どもか、どんな気持ちなのかと心理療法士は考えていきます。言葉にするのが難しい子どもなら、遊びの中で表現されている気持ちを汲み取り、言葉達者にお話しする子どもなら、そのお話に表現されている気持ちを汲み取っていきます。この時、訓練の中で学んだ先達の知見や、熟練者の指導を受けたり自分自身の心を理解するための個人セラピーの経験が、子どもの理解を深める礎となります。このように子どもと一緒に気持ちについて考え心の発達を促していくことに並行して、養育者との心理療法も行われます。心理療法といいましても、養育者と一緒にその子どもについて、その気持ちについて考えるだけでなく、家族全体をも視野に入れて養育者の困り感を聞き取り理解し、時に心理学で一般に言われていることを共有したり、必要であれば外部の専門機関とも連携をする相談もします。決まった曜日と時間に心理療法士と会うという経験を重ねることで、お互いに大嫌いだけど大好きという気持ちに折り合いをつけ、本来持っている良い関係を作りたいという気持ちが上手く機能するのを促し、子どもの心の成長だけでなく家族の成長も目指していきます。

 心理療法はとても時間のかかる営みです。昨今のコスパやタイパ重視の考え方に、決して見合ったものではないかもしれません。けれども、これは私見ですが、心理療法を受ける経験を重ねることで、子どもの心にいざとなったら助けてくれる養育者が留め置かれ自分の足で歩んでいけるようになり、家族は安全安心な帰還場所となり、家族のメンバーの間にはどんなに遠くへ行こうとも途切れることのないしなやかで強くて長い絆が結ばれるようになることを期待して援助しています。だからこそ時間が必要とされるのだと考えています。一人の子どもとその家族の成長に立ち会うという貴重な経験をさせていただくために、訓練終了後も子どもの精神分析的心理療法士は日々研鑽を積んでいます。

 ここで、家庭で具体的にどんなことができるかという疑問が生じると思います。家庭では、とにかく楽しい思い出をたくさん作ることをお願いしたいです。子どもは楽しい思い出があることで頑張っていけると言われているからです。もちろん危険なことや道徳的に許されないことについては、毅然とした態度でダメと言わないといけない時もあるでしょう。ダメと言い過ぎず、教えてあげるという対応が奏功することもあります。最後に、とても大切なことなのですが、決して完璧を目指さず、子どもにとってほどほどの良い養育者であり家族でいていただくことも忘れないでいてください。

(八尾子どものこころ心理相談室 Sīla 代表/

NPO法人子どもの心理療法支援会認定 子どもの精神分析的心理療法士/村田りか)

 

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