コラム
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世界の見え方、感じ方:感覚の敏感さを通して考える
近年、障がいや困難を抱える人たちが、自分自身について研究する「当事者研究」が盛んに行われるようになってきています。自分自身がどのように世界を見て、感じているのかを研究し、周囲に報告するという実践を通じて、色々なものの見え方やとらえ方があることを社会に伝えるという試みですね。心理学を専攻する学生は「ルビンの壺」の図などで、色々な見え方があることを最初に学びます。今回は子どもたちの見え方やとらえ方について、感覚の敏感さという視点から書いてみようと思います。
私がこれまで臨床心理士として支援してきたお子さんの中には、何かが肌に触れることに敏感でシャワーを浴びることや長袖の洋服を着ることが苦手なお子さん、物音に敏感で授業に集中できないお子さんたちがいました。あるひとりのお子さんは、特に石がこすれる音に敏感で、砂利の上を歩くときは、他の感覚が入ってこないそうです。そのお子さんにとっては、石のこすれる音の一つひとつが異なって聞こえるため、砂利の上のような場では無数の異なる音が聞こえ、それらに聞き入ってしまい、友だちと上手に遊べず、また石の音の聞こえ方の違いも理解されずにいました。いずれも「感覚過敏」というひと言で片づけられてしまうような体験ですが、それが彼ら/彼女らにとっては生きづらさにつながっているようでした。このような体験を知り、周囲の人たちが「あぁ、それでつらかったんだね」という共感ができるようになることで、本人たちの「分かってもらえた」体験につながり、つらさが和らいでいったこともありました。
上記のシャワーが苦手なお子さんは、頭に浴びているシャワーのお湯の本数が分かってしまう体験をしていることに保護者はある時ふと気がつきました。「それは大変だろうな」と、保護者はお子さんの気持ちに深く共感しました。長袖を着るのが苦手だったお子さんは、手を洗う際に水で濡れた洋服の袖が肌に触れる感覚がとても嫌で、長袖を着ることを避けていました。それをある時、そのお子さんは言葉で保護者に伝えることができました。保護者は「それは分かるわ。私も気持ち悪いから」と、思わず反応したそうです。それ以来、そのお子さんは安心して保護者に不快な体験を伝えてくることが増えたそうです。石の例については、砂利の上で後ろから友達に石を投げてもらって、落下した時に出る音からどの石が投げられたか当てるという「音でどの石か当てるゲーム」を周りの友だちが作り出しました。その結果、そのお子さんは周りから「天才」と評され、音の違いの感覚も友達に理解してもらうことができ、放課後の遊びがとても楽しくなりました。
こうした感覚の違いは、一緒に過ごす家族や学校、周囲の友人でもなかなか理解が難しいもので、それを周囲に理解してもらえることは彼ら/彼女らにとって、とても救われる経験になりえるものです。そして、彼ら/彼女らの体験を理解した上で、聴覚過敏であればイヤーマフを使うといった支援へと繋げていきます。この自分とは異なった、他の人の見え方やとらえ方もあると知っていくことや理解していくことは、子どもたちを支援していく上でもとても大切だと日々実感しています。
ちなみに、プロサッカークラブの川崎フロンターレが、自閉スペクトラム症を含めた発達障がい児の感覚過敏の世界を疑似体験できる映像をYouTubeに挙げているので、こちらも参考にしてみてください。https://www.youtube.com/watch?v=6MW04Kfi9oQ&t=5s
ルビンの壺(壺にも二人の顔が向き合っているようにも見える)
(サポチル理事/医学博士/臨床心理士:藤森 旭人)