サポチル NPO法人 子どもの心理療法支援会

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「正しい」子育てはありうるのか?

 子育てコラムと聞くと、何か「正しい」知識を与えてくれるもの、と感じられるかもしれません。「正しい」子育てとはなんでしょうか。今回はその「正しさ」を求めようとする考えが子育てにどう影響を与えるのか、そもそもそれが役に立つことなのかを考えたいと思います。

 

 子育てを巡って、多くのプレッシャーを親は受けます。例えば「ちゃんとした親でなければならない」「子どもの問題行動は親の関わりが問題」といったものです。こうした声は社会から発せられるもの、親自身の中からも生じるものの両方がありますが、子育てに悩む時期には特に、そうした「正しい」情報へ注意が余計に向き、大いに苦しめられることがあります。

 現実的には子どもは親の考えに沿わないことも当然ありますし、時には親子は大きく対立し、却ってお互いギクシャクしたり、関わることがとても苦しくなる場合があります。こうした状況では、「正しい」子育てについての考えは親を追い詰めることになります。直近ではコロナ禍により、一層家庭内での緊張も強かったかもしれません。

 「正しい」子育てを目指すことは、その答えに辿り着くというよりも「間違っている」子育てとして現状を非難する声になることがほとんどです。むしろ「程々の落としどころ」をお互いに探り合っていくことの方が有益です。

 

 例えば食事の一場面を考えてみましょう。

 Aさんは、2歳になるBちゃんのために栄養を考えて毎日ご飯を作っています。Bちゃんは最近遊び食べが目立ち、しばしば食事の席から離れて遊びに行ってしまいます。無理に席に戻そうとすると心底嫌そうに喚き、時にはお皿をひっくり返してしまいます。Aさんはどうして「ちゃんと」ご飯を食べないのか苛立つとともに、Bちゃんが言うことを聞かないのは自分のやり方が間違っているからだと思えて、次第に食事の時間はとても気の重いものになっていました。

 

 これは仮想の場面ですが、似たようなことは相談場面で耳にします。子どもにも親自身にも「ちゃんとすべき」という考えでがんじがらめになってしまう状況です。

 難しいことに、万能的な「正解」はありません。急にBちゃんが大人しくご飯を食べるようになることは現実的にはなかなか起こりえませんし、親の行動一つでガラッと変わるものでもありません。

 現実的にあり得る対応は、子どもが受け入れられる範囲の中で子どもと交渉・調整していくことかもしれません。普段の子どもの様子からここまでなら食べられるであろうところを目標にしたり、トータルで栄養がぼちぼち取れていればいいか…というところが落とし所になることも往々にしてあります。つまり、現実的かつ親子の双方が辛くならずに過ごせる目標を探していくわけです。

 子育ては子どもとの間で色々と交渉・調整していくという意味で協働関係に支えられています。時には、地域の子育て支援などを利用するなど、誰かに子育てで困っていることについて話したり、一緒に考える場合もあるかもしれません。そこでは「正しさ」を目指すというより、親と子どもが妥協できるところを探しつつ、少しでもお互いが居心地よくいられるように考えていくことが役立つのではないでしょうか。

(サポチル理事/臨床心理士:井上祐)

 

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