コラム
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コミュニケーションはむずかしい…
言いたいことをちゃんと伝えたつもりだったのに相手に違う解釈をされた、伝えたいことがあっても、話しかけづらくて伝えられない。多くの人がこんな経験をしたことがあるのではないでしょうか。最近は企業や医療現場でも、このような「コミュニケーションエラー」つまり「コミュニケーションの失敗」が、重大な事故を引き起こす要因にもなりうるとして、これをいかに防ぐかということが大きな課題の一つになっています。それくらいコミュニケーションはむずかしいものです。
たとえば、親は子どもが卵焼きが好きだと思って毎日せっせとお弁当に入れ続けていたのに、子どもの方は実は苦手だと言えずに無理をして食べていたとか、子どもは親が自分に関心を持っていないと思い込んで家に寄り付かず、親は親で子どもに嫌われていると思ってかかわりを避けていたけれど誤解だった、というようなエピソードは、日常でも臨床場面でも珍しくありません。このように「コミュニケーションエラー」は、はっきりそれとわかるものだけでなく、当人同士またはその一方が、長い間すれ違いの存在に気づかず、何かのきっかけで突然発覚することもあります。そんなとき(なぜ気が付かなかったのだろう…)(言ってくれればいいのに…)(ちゃんと聞いてみたらよかった…)などと悔やむのですが、すれ違っている最中は、なかなかそのことに気がつくことができません。
こうなってしまう理由の一つに「思い込み」があります。私たちは普段から、きっとこれはこういうことなのだろう、相手はこう考えているのだろう、などの推測をしながら、コミュニケーションを取ります。でも、少し油断するとこの推測は「思い込み」に変わり、相手の心の変化や動きに気付くことを邪魔してしまいます。こうなってしまうとすれ違いは広がる一方です。
では、いったいどうしたらよいのでしょうか。心理学にはアタッチメント理論というものがあります。これによれば、親子が安定した関係をはぐくむためには、子どものサインを親が正確に読み取り、情緒的なニーズに敏感に応じる必要があるそうです。でもそれとと同時に、サインを正しく読み取ることそのものよりも、すれ違いに気付いて修復することを積み重ねることの方が大切だということも指摘されています。こう聞くと少し救われた気持ちになります。
何かがおかしい、と違和感を持った時「思い込み」によって相手の気持ちを勝手に理解してしまうのか、このすれ違いはなんだろう?、と立ち止まって相手のこころに関心をよせられるのか。ここが、小さなすれ違いが「コミュニケーションエラー」に向かうか「安定した親子関係や人間関係」に向かうかの分かれ道になるのかもしれません。
(サポチル理事/サポチル認定子どもの精神分析的心理療法士/臨床心理士:河邉眞千子)
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