サポチル NPO法人 子どもの心理療法支援会

コラム

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『子どもの心理臨床の場を個人開業することをめぐるあれこれ』 Vol.3 個人開業だからこそ経験した人とのつながりに支えられ励まされるということ

今回は、個人開業の場(カウンセリングルーム)について知ってもらうことと相談予約を得ることをめぐるあれやこれやについて紹介したいと思います。

これまでにVol.1や2で綴ってきたように、私は臨床家としての自分の理念をかたちにするために個人開業をし、子どもと家族の心理臨床の場を設えた。しかし、開業臨床というのは、ひとりでは何もできないんだなということを早々に思い知らされることになった。

どういうことか?

まず、誰も来ないという現実。個人開業の始まりは、とても孤独な時間となった。当然だ。開設したばかりのカウンセリングルームはまだ誰にも知られていない場所なのだから。

分かってはいたことではあるけれど、一体いつまで誰にも知られていない場所のままであり続けるのだろうか、、、

早くも個人開業臨床家としてやっていけるのかという揺らぎが自分の内側に生じていることを感じ、愕然とした。

自分の信念や理念だけではやっていけないのか?

頭では分かっていたことだった。いや、分かっているつもりだっただけなのかもしれない。そんなに甘い世界ではないし、少しずつ地に足をつけてやっていくしかないだろう。何度も何度もそう自分に言い聞かせた。

作成したホームページのSEO対策をしたり、パンフレットや看板等の実際に人目に触れる媒体を使うことやX(旧Twitter)やInstagram等のSNSやHP内のブログによる情報発信をすること等に力を入れた。もちろん、すぐに成果が得られるわけではなく、人に知ってもらうことやそのために地道に情報発信を継続していくことの大変さを思い知った。

また、より直接的な広報宣伝活動として、実際に近隣の関連機関に連絡したり、カウンセリングルームのパンフレットを郵送したりもした。こちらも当然、何の反応もないところがほとんどだった。それも分かる。だって、逆の立場なら。確かに。知らないカウンセリングルームの開業の知らせが届いたとしても余程のことがなければ、なかなか連絡は取りにくいだろうなと思う。それでも手紙やメールで反応してくれたところも僅かながらあったことに救われた。

そんな中、ある診療所の院長先生が私のカウンセリングルームに足を運んでくれたり、長年この地域で開業心理臨床を実践されている大先輩が激励に来てくれたり、またその逆に同じようにこの地域で長く開業心理臨床を営んでいる大先輩のオフィスに挨拶に伺わせてもらったり、地域の広報誌を担当する営業部の方が話しに来てくれたり、大学病院の医師からどんなケースを引き受けてくれるのかという問い合わせがあったり、少しずつ個人開業の場を知ってもらえる機会が増えていった。その間、何人かの知り合いが遊びに来てくれたことや、私のもとにスーパービジョンに来てくれる臨床家や私が主催する勉強会に参加してくれる臨床家たちがいたことにも大いに励まされ支えられた。

人は人に支えられるんだなということを感じた。

開業して数ヵ月経ち、相談予約がぽつりぽつりと入り始めた。とても大きな安堵感を得たし、相談に来てくれた方の役に立てることにこの上ない喜びを得た。

私を信頼して心理相談を必要としている家族を紹介してくれる人、相談に来てくれる人、私のところで学びたいと思い学びに来てくれる人、応援し励ましてくれる人。人とのつながりを感じて、自分の心が回復していく気がした。個人開業の場で頑張っていこう、頑張っていくんだと。こういったことは、個人開業だからこそ味わえる感覚なのかもしれない。

個人開業の場を知ってもらえることで、少しずつ問い合わせがあったり、相談を必要としている家族や子どもを紹介してくれる人も増えてきた。

この場所を知ってもらうことが大事なことであり、そのためには個人開業の場だからこそ、外とのつながりを大切することが求められるのだということを実感した。

子どもの心の悩みや発達的な躓き、家族にとっての子育ての悩みを抱えた人たちが助けを求め、様々な相談機関の中から、私の個人開業の場を見つけ足を運んでくれることはとてもありがたいことだと感じる。

また、相談に訪れる方の中には、紹介者がいる人たちが多い印象がある。私の知人や専門家仲間にとっての大切な人たちに私のカウンセリングルームを紹介してもらえるのはとても嬉しい。知り合いが自分たちの大切な人を紹介してくれることに信頼されているということを感じる。その期待に全力で応えていきたい。

個人開業という場は、組織から離れ、臨床家としての自分の理念や信念をかたちにできる場である。しかし、だからこそ、独りよがりになる危険性もつきまとうし、開業臨床はひとりでは成り立たないということがよく分かった。組織に属している時にはあまり考えていなかったかもしれない、いや、考えてなくはなかったが、よりいっそう人とのつながり、社会とのつながりが必要になるし、それを強く実感することになった。個人開業することはできたとしても、それを維持し継続していくことの難しさはそういうところにあるのかもしれない。

私は個人開業の場で、自分のこれまでの経験を生かし、臨床実践を営んでいくことはもちろん、専門家育成や地域社会への発信も地道に続けていくことで、臨床家としての自分の理念に基づいた子どものユニークな心を大切に育んでいく関わりを多くの人に知ってもらいたいし、届けたいと思っている。

(サポチル認定子どもの精神分析的心理療法士/小笠原こどもとかぞくのカウンセリングルーム 小笠原貴史)

 

名称:小笠原こどもとかぞくのカウンセリングルーム

所在地:東京都渋谷区千駄ヶ谷5-17-1フェリーチェ千駄ヶ谷202

※小笠原こどもとかぞくのカウンセリングルームは、サポチルの委託機関ではありませんが、「子どもの精神分析的心理療法士」による専門的な精神分析的心理療法を受けることができます。今後、関東地方においても委託機関の認定が進むよう、セラピストの育成や支援のための寄付のお願いに尽力していきます。

 

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