サポチル NPO法人 子どもの心理療法支援会

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『子どもの心理臨床の場を個人開業することをめぐるあれこれ』 Vol.2 開くための準備としての細々とした設定を整える経験

 前回は、私が個人開業に向けてどのような想いを胸に一歩踏み出したのか、そして、部屋探しを始めて直面した困難と何とか無事に部屋を見つけ、場を設えていったプロセスについて書きました。今回は、もう少し細かい部分の準備や設定をめぐるあれやこれやについて綴っていきたいと思います。

 まずは、子どもの心理療法において重要なアイテムとなる玩具について取り上げてみます。

 これは個人開業に限らずとも、子どもの心理療法やプレイセラピーを実践している人にとって関心が高い内容かもしれません。私にとっての臨床場面で用いる玩具について簡単に振り返ってみます。

 自分がこれまでの職場で使ってきた玩具。それらは元々その職場にあったものが多かったです。最初からそこにあったものなので、何も考えずにそれを当たり前のように使っていました。そうすると、なかには「どうしてこんな物があるんだろう」、「もう少し違う物があればよかったのにな」といったことを思ったこともありました。同じように考えたことのある臨床家は私だけではないのではないでしょうか。ただ、勝手に玩具を入れ替えるわけにもいかないし、あるものを大事に使っていくことしかできなかった自分がそこにはいました。

 しかし、個人開業となると、すべて自分で考え、選ぶことになります。子どもの心理療法を行う上で、どのような玩具が子どもの心を表現するのに役立つだろうかといったことを夢想しながら玩具を集めていくことになります。

 玩具はどこでどのように探すか?もちろん、近所の玩具屋さんで探すことになりますが、最近は大型家電量販店が玩具屋さんになっています。私も我が子に玩具を買ってあげる時には、子どもと一緒に家電量販店に向かいます(最近ではスマホをタップするだけで買えてしまいますが)。そこで、大量に並ぶ玩具の中から子どもが欲しい玩具を見つけるということをやっています。ですが、そうすると、流行り物やキャラクター物、あるいはハイテク系のボタンひとつで動いたり音楽が流れたりする物ばかりがずらりと並んでいます。心理療法で使うにはなかなか難しいものばかりという感じです。

 心理療法で用いる玩具は、流行り物やキャラクター物や細か過ぎるパーツから成る物や壊れやすい物は避けた方がいいし、なるべく頑丈で簡素なもの、しかし、子どもが手に取ってみたくなるものがよいと思います。私は温もりが感じられる木製の玩具を好んでおり、なるべくそこにはこだわりたいと思っていました。ただ、そんな想いがあっても、やはり現実的にはすべての玩具にこだわることはできないという問題が当然浮上してきます。予算的にも、部屋の構造的にも、購入できるもの、できないもの、置けるもの、置けないものを思案することになります。

 では、私の場合は、何を優先するかとなった時に、部屋の中の見える場所に置くことになるドールハウスは子どもたちがそれで遊んでみたいと思えるようなものを選びたいという想いがありました。なので、ドールハウスには少しばかりこだわってみました。

 何年も前からいずれ個人開業したら使ってみたいドールハウスを探していました。よさそうな物を見つける度にスマホで撮影したり、チラシをもらったりしてきたなかで、時々通りかかるセレクトショップ的な雑貨屋さんで取り扱っていたドールハウスが私の心を引き付けました。木製であること、大き過ぎず小さ過ぎないサイズ感、派手過ぎず地味過ぎない色合い、ちょっと触れてみたくなるような雰囲気等。これを使って遊ぶ子どもの姿を頭の中で思い浮かべ、そのドールハウスに決めました。実際に置いてみると、部屋の雰囲気にも合い、良い感じに収まっているように思います。

 他の玩具に関しては、家族人形や動物フィギュアや車、木製の電車と線路のセット、積み木、描画用の文具等を用意しました。これらもなるべく、子どもが手に取りやすい物を選びました。

 あとは、子どもの心理療法で使用する玩具を入れておくための個人用ボックスについても少し触れておきたいと思います。すべての玩具を子どもそれぞれの個人用ボックスに用意するのは、コスト的にもスペース的にも難しかったので、家族人形と文具類のみ個人用として用意し、その他の玩具は共用にするという判断に到りました。この辺りは徐々に工夫していこうと考えています。

 次に、料金をめぐってのもの思いについて綴ってみたいと思います。これはとても悩ましい問題でした。私のカウンセリングルームの料金設定は、初回相談90分で18,000円、継続相談50分および心理療法50分で13,000円です。皆さん、この料金設定をどう思いますか?おそらく、皆さんそれぞれに色々と思われることがあるだろうと想像します。私の想いと考えがどのように料金設定に結びついているのか?“子どもの心を大切にしてもらいたい。そして、それは価値があることだ”ということが私の想いです。

 私も子育て中の親であるので、周囲の子育て世代から様々な情報が入ってきます。また、様々な子ども関連の案内が送られてきます。驚くべきは、塾や習い事にかなりの金額を使っている家庭が一定数以上いるということです。子どもの将来のためにという期待を込めて。もちろん、それは間違ってはいないし、それだけ恵まれているとも言えるでしょう。しかし、臨床の場で関わる家庭のなかには、塾や習い事にはお金をかけるけれども、子どもの心のケアや心を育むということにはあまり関心がないように見える家庭も少なからずあるように感じています。その度に、子どもの個性や心というものにも価値を置いてほしいという想いを強く抱きます。特に、子どもが心のことに悩み苦しんでいる場合には、そこに時間とお金をかけてあげられる社会になってほしいという願いにも似た気持ちが私の中にあります。これが私の個人開業の場での料金設定につながる大きな理由のひとつです。

 加えて、もっと現実的な側面もあります。それは個人開業の場を維持するために、そして、自分が生活していくために必要な金額設定をしなければならないという理由です。例えば、私の家が経済的に裕福だったり、配偶者が高所得者であったり、何らかの潤沢な資金援助があるような、経済的不安が少ない状況での個人開業だったとしたら、これは全く何も悩むことはなく、もっと低料金の設定にして多くの子どもや家族が気軽に受けられる料金設定にしていたかもしれません。しかし、私には自分の生活、家庭があり、子どもたちがおり、養っていく必要があるし、家族と共に生きていかなければいけない私の現実があります。開業の場を維持することはもちろん、生活のための収入を得ることが求められるわけです。それは分かった上での個人開業だったし、これは慈善事業ではない自分と家族が生活していくための生業であるので、当然の現実だと考えています。ただ、それでも、一方で、経済的に恵まれていない家庭の子どもたちにも心理支援が必要だし、届いてほしいという想いがあります。実際に、そういう心理支援をしてきた経験が今の私の臨床の糧になっていますので、その恩返しはしたいと思っています。

 そこで私が想い至ったのは、まずは個人開業の場の維持と自分の生活の安定を目指すこと、その先に経済的に恵まれていない家庭の子どもたちのための低料金枠を何枠か設定できればいいのではないかということです。そして、いずれ、サポチルの支援ケースを引き受けられるような準備も視野に入れてみようと。

 ただし、これはあくまで私個人の中の構想であり、実現できるかはまだ分かりません。もし私の個人開業の場で、低料金枠が設けられなければ、より多くの寄付金をサポチルに届け、私の個人開業では実現できない心理支援を他の支援機関で実現してもらうという方法であっても悪くはないだろうとも思っています。

個人開業をするということは、このような料金設定や自分の理念を自由にかたちにできる可能性が格段に広がるということを感じています。悩みは尽きないけれども、あれやこれやと試行錯誤しながら、自分の想いをかたちにしていける場として、個人開業の経験から学んでいけることがこれからもたくさんあるように思っています。そういった経験を皆さんに少しずつお届けでき、それを誰かに受け取ってもらえたら嬉しいです。そして、子どもの心理療法を実践していく仲間が増え、一緒に夢を見て、それを実現していける可能性が高まっていくことに期待したいです。

(サポチル認定子どもの精神分析的心理療法士/小笠原こどもとかぞくのカウンセリングルーム 小笠原貴史)

 

名称:小笠原こどもとかぞくのカウンセリングルーム

所在地:東京都渋谷区千駄ヶ谷5-17-1フェリーチェ千駄ヶ谷202

※小笠原こどもとかぞくのカウンセリングルームは、サポチルの委託機関ではありませんが、「子どもの精神分析的心理療法士」による専門的な精神分析的心理療法を受けることができます。今後、関東地方においても委託機関の認定が進むよう、セラピストの育成や支援のための寄付のお願いに尽力していきます。

 

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