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「こころの羽の伸ばし方」#2 エッセイ記事:本を薦めることは友人を紹介すること
私に何かかけるだろうか、正直、困った。ただそれは『臨床家のバックグラウンドを見せる』企画を言い出した側で、趣旨を拡大して何か書けないか困るというより、好きな本を人に見せることが思っていたよりずっと難しくて手が止まったのだ。
困って、ある人を思い出した。120年前、似たような依頼を受けた人がいる。出版社から「良い本を10冊挙げてほしい」と頼まれて、その事務的な問いに、この依頼は謎めいている、と身構えた人だ。
彼は、良書とは何かに答える代わりに、聞かれていない三つの問いに答えはじめる。最も壮麗な作品を聞かれたのなら、ホメロスやソポクレス、ファウスト、ハムレットと答えただろう。最も重要な本なら、コペルニクスやダーウィンの名を挙げただろう。愛読書とすら聞かれていないが、それならミルトンの失楽園を忘れなかっただろう、と。
それでも彼は、最後には10冊を挙げた。そして、良書の定義を残してくれた。良書とは、良い友人に対するのと同じような関係にある本。人生や世界観についての知識の一部を、その本に負っているような本。自分も楽しんだし、喜んで人に薦めたいと思う本。畏敬の念に打たれて小さくなってしまう、そんな感覚があまりない本。
ジークムント・フロイトの「読書に関するアンケートへの寄稿」。1906年、ウィーンの出版人が32人の著名人に送ったアンケートへの、短い返信である。
私がこの手紙に出会ったのは、回り道の途中だった。1895年、フロイトは親友フリースへの手紙で、ヤコブセンの小説『ニールス・リーネ』に最も感銘を受けたと書いている。別の調べものでこの本を追いかけていた私は、10年後のこのアンケートにたどり着いた。そこに、この本の名前はない。壮麗な作品にも、重要な本にも、愛読書にもない。理由はわからない。ただ、親しい友人への手紙に書くことと、印刷されて世に出る回答に書くことは、違うのだろう。その感覚なら、私たちもよく知っている。
精神分析的心理療法に携わる臨床家にとって、フロイトはおそらく、避けて通れない古典なのだと思う。今の臨床にそのまま答えを与える教科書というより、精神分析の言葉や問いがどこから来たのかを確かめるために立ち返る場所。私にとってのフロイトは、思想がどこから来て、どこへつながっていくのかを辿るための結節点であり、なにより、手紙を書く人だ。事務的な質問に「謎めいている」と返し、身をかわしたくせに、最後には10冊挙げて、挙げたあとも注釈なしでは手放せない。初めて読んだとき、思わず笑った。こういう人の話をしたくなる相手は、ふだんの私の周りにはあまりいない。
だから、友人を紹介するつもりで、ここに書いた。本を薦めることは、本棚の見栄えを競うことではなく、友人を紹介することなのだと、この手紙が教えてくれたから。
この後に続くサポチルに関わる臨床家の方々の記事を、一読者として心から楽しみにしています。彼らはどんなふうに友だちと会話しているのだろうか。どんなふうに世界を見ているのだろうか。引き受けてくださり感謝します。自分の本棚を見せるのは、きっと勇気がいることだから。

本連載は、サポチルに関わる臨床家が、自身の本棚や臨床の背景にあるものを紹介するエッセイです。サポチルは、それぞれの個性と臨床観を持つ専門家一人一人によって成り立つ団体です。その顔ぶれそのものをお伝えしたく、いずれも無署名で掲載します。また、エッセイの多くは会員向け会報に掲載したものを、執筆者の了解を得て再掲載しています。
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【サポチルの今後の展望について】
日本での子どもと家族の支援は、既に一定の公的な支援が行われています。最近では、子ども家庭庁が設立され、全国の地方自治体に子ども家庭センターが設置され、子どもと家族の支援が進められています。しかし、じっくりと子どもや家族を見つめて支援する姿勢が十分に浸透しているとは言い難いのが現状です。精神分析的アプローチのように、非常に細やかな対応をすることは、現代の日本社会の文化や風土において難しい部分もあるのかもしれません。しかしそうしたアプローチで初めて、いわば救われる子どもや家族がいるのではないかと思います。そのため、公的な支援の枠組みには乗りにくい子どもや家族の支援を引き受けることが私たちサポチルの使命だと考えています。
サポチルは、家庭の経済状況にかかわらず、それぞれが抱えている問題に対して支援を行うことで、子どもたちが健全に成長できる社会を目指しています。サポチルでは、現在子どもたちの支援活動を財政面で支えてくださる方を募集しています。
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