サポチル NPO法人 子どもの心理療法支援会

コラム

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セラピーレポート③*里親家庭の支援ケース*

 みなさまからのご寄付によりセラピーを提供させていただきましたケースの概要をご紹介いたします。なお、個人情報保護のため、ケースは本質を損なわない範囲で内容を編集しております。たくさんのご寄付ありがとうございました。

Aちゃんは3歳の時、ご縁があり児童福祉施設から里親家庭の子どもになりました。里親になったお母さんは、突然の環境変化により気持ちが不安定になったAちゃんと親子関係を築くことに戸惑いを感じて、相談に来られました。そして、「児童福祉領域のアセスメント面接サービス」を利用することになりました。「児童福祉領域のアセスメント面接サービス」は、サポチルの支援の下、経験豊富なセラピストがこうした親御さんや施設職員さんの相談に乗り、一緒に最適な援助方法を探っていく機会を提供するサービスです。

アセスメント面接で、Aちゃんは忙しく焦ったように動きおもちゃを操作していましたが、その姿は足場の揺らぐような不安から、なんとか身を守ろうとしているように見えました。Aちゃんの遊びは、気持ちが豊かになる遊びの体験とは違うようでした。また、お母さんから離れて一対一で会おうと試みると絶叫するように泣きました。こうしたことから、Aちゃんは予測のつかない変化に脅かされ恐怖心で一杯になっていることが伝わってきました。まずはAちゃんが安心感を持ち、新しい家族の子どもとして親子関係を築いていく支援を目的に、母子同室で週1回のセラピーがお役に立てると判断し、開始されました。

セラピーの面接でも、Aちゃんは自分の気持ちを体験することが難しく、不安を感じると落ち着きを失い、自分でも訳が分からないように動き回りました。また、人と触れ合うことへの敏感さや緊張から、お母さんにも体の力を抜いて身をゆだね抱かれることが難しいようでした。素直に甘えたい気持ちを表出せず、おふざけで接近して気を引くところがありました。そうしたAちゃんの気持ちをお母さんと話して理解を重ねていき、お母さんはAちゃんの一見わかりにくく難しい気持ちを受け止めようと努め続けました。

そうした中で、徐々にAちゃんはゆったりと落ち着いて遊んだり話したりするようになり、お母さんに素直に甘えて抱っこされることが増えました。また素直な甘えの気持ちの表現である指吸も見られるようになりました。ある時Aちゃんは、お母さんから「生まれてきた!」と自分の誕生物語を遊びで表現しました。Aちゃんは、このお母さんの赤ちゃんとして、赤ちゃん時期を再体験しているように思われました。

最近、Aちゃんは家族の絵を描いてくれました。それはお母さんのおなかの中にAちゃんがいる絵でした。そして自分からお母さんの膝に抱かれて、お母さんと自分が「繋がっている」と話してくれました。Aちゃんは、このお母さんの子どもであると体感し、自分の家族をかけがえのないものと感じているようでした。

ある日突然親子になり、多くの課題が一度に押し寄せてきましたが、Aちゃんとご家族の奮闘により一つの家族になろうとしています。サポチルの支援で継続されるセラピーはこうした親子の格闘にお役に立てているところもあるかもしれないと実感しています。

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