サポチル NPO法人 子どもの心理療法支援会

コラム

COLUMN

ちょっとした知識や情報をお伝えするコンテンツ

『子どもの心理臨床の場を個人開業することをめぐるあれこれ』vol.1 開業に向けて一歩踏み出し、部屋を探し、場をつくるまでの経験

2023年5月、東京都渋谷区千駄ヶ谷にて「小笠原こどもとかぞくのカウンセリングルーム」を開設しました。名前の通り、子どもと家族を対象にした心理相談室です。相談室の詳細は是非ホームページをご覧ください。ここでは、ここでしか書けないことを書いてみようと思います。

子どもと関わる仕事を地道に続け、子どもの精神分析的心理療法の訓練を受けながら、実践と訓練の経験が内的なつながりを持ち始めたことに加え、特に個人セラピーの経験が後押しとなり、自分が子どもの心の専門家として歩んでいくことへの信念が自分自身の内に実感できるようになったことが個人開業の大きなきっかけです。

実践と訓練をめぐる経験についての詳しいことは『子どもの精神分析的セラピストになること』(金剛出版)の中に綴っているので関心がある方は是非手に取ってもらえたらと思います。

これまで様々な立ち位置で子どもと家族と関わってきました。そこで思うのは、子どもと家族のかたちは多種多様であり、とてもユニークなものだということです。子どもの心は当然ひとりひとり異なるユニークなものです。そして、子どもだけでなく親もひとりひとり異なるユニークな存在です。だからこそ、ユニークな子育てというものがもっと大切にされていいのではないか。そんなふうに思えたことで、自分がこれまでやってきたこと、今やっていること、これからやっていきたいことがつながっていく感じがしました。

それに伴い、より自分事として自分の臨床をつくっていける場への希求性が高まっていきました。

他にも、ちょうど同じ頃、古くからの友人が個人開業したということも大きな刺激となりました。その友人にも自分の理想や願望、そして不安について話を聞いてもらいました。その上で、自分のタイミング、自分のペース、自分のやり方で開業しようという決意のようなものができあがっていきました。

でも実際に何をどうすればいいのだろう?

そう思い、まずは自分にあるものを眺めてみました。自分が主催していた勉強会やグループ、若手臨床家への個人スーパービジョン等、専門家の育成のために自分がやっていたことを知ってもらうために、そしてこれから個人開業して相談室を作ろうとしていることを知ってもらうために、ホームページを作ろうと思いました。

現在までに何度か手直しをしていますが、すべて手作りのホームページです。ホームページのイメージとして、以前、仲間と一緒に出版した本の表紙イラストでお世話になったイラストレーターさんのイラストのイメージを使いたいという思いから、直接連絡を取ってお願いし、快諾を得ることができました。自分の好きなイメージのホームページができあがりました。

部屋探し。当初、新宿でやりたい気持ちがありました。なぜか?人が集まる街だから。あと自分が若い頃に近くに住んでおり、土地勘があったことや知り合いの医師や保健師や心理士などが働く職場がたくさんあったこともその理由でした。しかし、いざ探し始めると苦労の連続でした。安い家賃でアクセスが良く居心地の良い場所。そんな条件では当然見つかるはずもなく…

複数の不動産仲介業者とたくさんの物件を見て回りました。どんどん自分のイメージから遠退いていく現実。怪しげな雑居ビルの薄暗い部屋。古ぼけて手入れのされていないカビ臭い部屋。時々出てくる割と雰囲気がよく小ぎれいな部屋もありましたが、今度は条件面でNGが出ました。「カウンセリング?」「子ども?」「NGです」と。あ~、この業種、しかも子どもを対象としていることがこんな扱いをされるとは。まさかこんなに難しいなんてと打ちひしがれました。自分のやっていること、やろうとしていることはそんなに肩身の狭い思いをしなければいけないものなのかという悔しさも感じました。

それでも、子どもの心理療法を行うことができる居心地よく安心できる場所を見つけることを諦めたくはありませんでした。そして、ついに、何ヵ月も探す中でようやく見つけることができました。探し始めた当初からずっと親身になって部屋探しに付き合ってくれた不動産仲介の担当者であったからこそ、こちらの想いもよく分かってくれていました。他の不動産担当は様々な理由をつけながら離れていった中で唯一付き合ってくれた人でした。その人が見つけてくれた物件。新宿御苑の横、小学校の前、日当たりもよく明るく気持ちいい部屋。まさに探していたイメージとも一致しました。

部屋作り。家具などは実は持ち合わせのものがほとんどで、新たに購入したものは椅子と心理療法用の玩具くらいです。自分の妻や子どもたちにも意見をもらったり実際に手伝ってもらったりしながら部屋作りを行いました。部屋ができたことでホームページも手直しし、カウンセリングルームを知ってもらうためのパンフレットも手作りしました。

いよいよ準備が整ったことで大きな安堵を感じました。それに続いて喜びも。その喜びをまずはこれまでずっと協力してくれた自分の妻や子どもたちと分かち合いました。そして、お世話になった人たちにも連絡しました。自分だけで作り上げようとした個人開業は、実際には自分だけではつくれず、協力してくれる人たちや応援してくれる人たちの存在に支えられながらつくることができました。

ようやく立ち上げることができた、この新たな子どもの心理療法を行うための場所を多くの人に知ってもらいたいと思っています。

次回は、玩具選びや料金価格の設定などをめぐるあれやこれやに関して綴っていくつもりです。

(サポチル認定子どもの精神分析的心理療法士/小笠原こどもとかぞくのカウンセリングルーム 小笠原貴史)

 

名称:小笠原こどもとかぞくのカウンセリングルーム

所在地:東京都渋谷区千駄ヶ谷5-17-1フェリーチェ千駄ヶ谷202

※小笠原こどもとかぞくのカウンセリングルームは、サポチルの委託機関ではありませんが、「子どもの精神分析的心理療法士」による専門的な精神分析的心理療法を受けることができます。今後、関東地方においても委託機関の認定が進むよう、セラピストの育成や支援のための寄付のお願いに尽力していきます。

寄付によって、心理療法を必要としている子どもたちへの支援が行えます

【サポチルへの寄付はこちらから】

一覧に戻る
専門家の方へ