サポチル NPO法人 子どもの心理療法支援会

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「こころの羽の伸ばし方」#5 米津玄師の歌詞の世界との出会い 「Lemon」「アイネクライネ」

 

私が米津玄師の楽曲と出会ったのは FM802 でアルバム「BOOTLEG」が紹介されていて気に入って CD を買ったことが切っ掛けである。私は、米津玄師の CD を聞き始めた頃はその曲調が好みで聴き心地の良いポップソングとして、その楽曲を楽しんでいた。

私にとって、米津玄師の楽曲における歌詞の世界との衝撃的な出会いとなった曲が「Lemon」である。「Lemon」は 2018年1月にドラマ「アンナチュラル」(TBS 系)の主題歌として制作された。いわずもがなであるが、この曲は異例のロングヒットとなり、ミュージックビデオ再生が3億回再生になる大ヒットになった。

その歌詞は「夢ならばどれほどよかったでしょう、未だにあなたのことを夢にみる」というフレーズから始まる。最愛の人を喪失した後に、失ってもなお鮮烈に蘇るような情緒的体験が、各所に描かれているように思う。「あの日の悲しみさえ あの日の苦しみさえ その全てを愛していたあなたとともに」という歌詞にはその人物と過ごした日々における感情が表現されている。さらに、「胸に残り離れない 苦いレモンの匂い」という歌詞は、レモンの鮮やかな色と香りが連想されて、その喪失の悲しみを言葉だけではなく、視覚や嗅覚など感覚的な次元から蘇らせるように私は思うのだ。

私は2016年、2018年と長年育て支えてくれた高齢の両親を亡くしたこともあり、母親の夢を見て目を覚ました時に、母親がたったいままで側にいたような感覚が数秒間残り、現実と夢の境界があいまいになるような体験を何度か経験しているが、この曲の歌詞が自分の感覚的な次元を含む情緒的体験をコンテインしてくれているように思えるのである。

米津玄師はこの曲の制作中に祖父を亡くしている。雑誌『CUT』(2018年3月号)のインタビューでは、「この曲を作っている最中にうちのじいちゃんが死んだんです。それで今まで自分の中で作り上げてきた 『死』に対する価値観がゼロになった。結果、『あなたが死んで悲しいです』とずっと言ってるだけの曲になりました」と述べている。米津玄師が自身の情緒的な体験に向き合いながら創り出された楽曲だからこそ、 聴き手の心にも深く響くのではないだろうか。

 

紹介したい米津玄師のもう一つの楽曲、「アイネクライネ」は 2014 年4月23日に発売された、米津のメジャー1枚目、通算2枚目となるスタジオ・アルバム『YANKEE』の 4曲目に収録された曲である。米津はロッキング・オン・ジャパン 2015 年11月号において、20歳の時に高機能自閉症と診断を受けたこと を告白している。米津玄師の楽曲の情緒的に表現豊かな歌詞の世界と、彼が高機能自閉症であるという事とはイメージが一致せず、どう考えたら良いのだろうかという疑問が私にはあった。昨年からタスティンの著作を学ぶ機会があり、ふとその事を思い出して、米津のヒットソングのプレイリストを聴きながら考えてい た。

「アイネクライネ」の歌詞は、主語が「あたし」であり、女性から最愛の人に向けたメッセージのように感じられる。「あたしあなたに会えて本当に嬉しいのに当たり前のようにそれらすべてが悲しいんだ 今痛いくらい幸せな思い出がいつかくる別れを育てていく」「誰かの居場所を奪いとるならばもう あたしは石ころにでもなれたならいいな だとしたら勘違いも戸惑いもない そうやってあなたまでも知らないままで」という歌詞からストーリーは始まっていくのだが、その対象は「あたし」の消えない悲しみや綻びさえも、それで良かったねといって「あたし」の名前を呼んでくれたと続いている。「あたし」は何度も惨憺たる夢をみるような、越えられない夜を、(対象と)手をつなぐことで過ごしていく。「あたし」はこの日々が続きますようにと願うようになり、「あなたの名前を呼んでいいかな」という歌詞で終わる。

歌詞のストーリーにおいて「あたし」は「産まれた瞬間に消えてしまいたい」と思うような外傷的な経験を抱えて、消えない悲しみを抱え生きている。その「あたし」は最愛の人に出会った時に、「石ころにでもなれたらいいな」と言っている。F.タスティンの理論に照らして考えると、「あたし」は対象との耐えがたい分離性を経験しないように「石ころ」という固い障壁によって身を守ることで、対象からの分離性や自分の内部の「戸惑い」という情緒的な動揺の噴出から防衛しているように考えられる。しかし、「あなた」は「あたし」の手をつなぎ存在し続けて、「あたし」の消えない悲しみや綻びをコンテインしつづけている。最後に「あたし」は障壁を越えた世界で「あなた」と出会い、対象を求めて良いのだという気持ちに至り、それを「奇跡」という言葉で綴っている。精神分析的アプローチにおける治療のプロセスのように、心が蘇るプロセスが描かれているように思える。米津玄師、その人とこの歌詞の関連性を知ることは出来ないが、このようなストーリーは米津玄師だからこそ共感的に描けるのではないだろうか。

 

出典:米津玄師 (2014). 「アイネクライネ」. 『YANKEE』ユニバーサル シグマ.

米津玄師 (2015).  インタビュー. 『ROCKIN’ON JAPAN』, 2015年11月号, ロッキング・オン.

米津玄師(2017). 『BOOTLEG』.ソニー・ミュージックレコーズ.

米津玄師 (2018).  「Lemon」 [Video]. YouTube. https://www.youtube.com/watch?v=SX_ViT4Ra7k  

米津玄師 (2018). インタビュー. 『CUT』, 2018年3月号, ロッキング・オン.

 

本連載は、サポチルに関わる臨床家が、自身の本棚や臨床の背景にあるものを紹介するエッセイです。サポチルは、それぞれの個性と臨床観を持つ専門家一人一人によって成り立つ団体です。その顔ぶれそのものをお伝えしたく、いずれも無署名で掲載します。また、エッセイの多くは会員向け会報に掲載したものを、執筆者の了解を得て再掲載しています。掲載内容にお気づきの点がございましたらお問い合わせください。

 

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